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『平成パンツ(略)』刊行記念トーク:松永良平さん×髙城晶平さん対談(後編)

松永良平さん『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』の発売日当日にHMV Record Shop渋谷で開催された、髙城晶平さん(cero)と松永さんの対談より一部を抜粋し、前後編に分けてお送りします。

後編は、noteで書かれていた「平成パンツ」が本になっていく過程、デザインの裏話などを通じて「どんな本にしたかったのか」を髙城さんに引き出してもらっています。お二人の考える「ノスタルジー」についても話してもらいました。

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前編はこちら

「いつも描いてる猫のイラストで」とお願いした(松永)

松永 noteで書いてる最中に、知り合いからも「おもしろい」って言われることがときどきあって。
髙城 いや、おもしろかったですよ。
松永 そこはずっと半信半疑のままだった。おもしろいのかどうかは自分では決められないから、「じゃあ、とにかく続きを書くか」みたいな(笑)
髙城 「書籍になる」というゴールもその時点ではなかったわけですもんね。
松永 なかったなかった。書き終えるころには、こんだけおもしろいっていう声もあるから「もしかして本に?」みたいな気持ちもちょっとあったけど、結局全然オファーはなくて(笑)。ないまま令和になって、9月くらいかな、林さんから声かけてもらったの。「あれを本にする話、まだどこでも進んでないですか?」って。「どこでも」どころか「どこにも」なかったから「ゼロです」って話をした(笑)。林さんはフリーの編集者で、「最初は晶文社に掛け合ってみる」って言ってくれて。「マジで?」って反応したよ。そんなこと実現したら超うれしいじゃん。
髙城 晶文社が第一希望だったわけですね。
松永 しかも運よく会議を通過して、本当に晶文社から出ることになった。叶ったからには表紙周りは晶文社っぽくしたいと思ったね。林さんが平野甲賀さんとのつながりがあったから、スムースにいった。
髙城 イラストは坂本慎太郎さん。
松永 これはもう直感的に「描いてもらいたい」と思って。
髙城 松永さん得意の直談判で。この本に出てくるこの手のエピソード、ほぼほぼ直談判だから(笑)
松永 それで、坂本さんに「いつも描いてる猫のイラストがいいです」とお願いして。こっち向いて恥ずかしそうにパンツを履いてる絵柄にしてほしい、っていうのも、おれから指定した。
髙城 へえ、そうなんだ。ディレクションしたんだ。
松永 ディレクションまではいかないかな。おれは言葉でそう伝えただけで、ラフとかを渡したわけじゃないんで。あとは坂本さんにお任せ。
髙城 そしたら、これが来たんだ。最高ですよね。
松永 表4も描いてもらえることになったんで、そっちは出かけてる感じがいいなと思って。その例としてジョナサン・リッチマンの『ジョナサン・ゴーズ・カントリー』の裏ジャケの写真を送ったの。そのアルバムの表ジャケは、ジョナサンがカントリー親父の店に行って、いかにも似合わなそうな赤いカントリー・ブーツをオススメされて「うーん」って悩んでる写真なんだけど、裏ジャケは決心してそのブーツを履いて帰る後ろ姿なんだよね。
髙城 2コマ漫画みたい(笑)
松永 タイトルも最初は「長いかも」って意見も会議で出たそうだけど林さんが頑張ってくれて、甲賀さんもタイトルロゴ作るにあたって「いいタイトルだ」って言ってくれたそうなんだよね。ロゴ職人の魂が燃えたのかもしれない。
髙城 ちなみにceroでサポートしてくれてる古川麦くんのソロ・アルバム『シースケープ』(2018年)も、甲賀さんのロゴ・デザインなんだよね。まさか身近なところで2人も平野甲賀さんと仕事するとは思わなかったよね。

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古川麦『シースケープ』アルバムジャケット

松永 甲賀さんのロゴもそうだけど、和田誠さんの表紙ってのも憧れるじゃない? それで「現代における和田誠は誰か?」って考えた部分もある。
髙城 それが坂本さん? ポスト和田誠は坂本慎太郎って、すごいね(笑)松永 ときどきそういう適当な決めつけしちゃうんだよね(笑)
髙城 いや、でもこのタッグって最高じゃないですか。松永さんしかやれないと思う。
松永 おれしかやれないことじゃないとは思うけど、やったもん勝ちっていうのはあるよね。


可能な限り、文字だけの本にしたかった(松永)

♪ RCサクセション「イエスタデイをうたって」

髙城 これはRCですか?
松永 そう。この曲というか、この曲をタイトルにした漫画のエピソードがこの本にはあって。その話していい?
髙城 ああ、あの従姉の話? 聞きたい。
松永 母方の従姉で、10歳くらい上だったかな。もともと大阪に住んでて、すごい本読みでね。その人がときどき九州に遊びに来たときに「良ちゃん、この本おもしろいで」みたいな感じで薦めてくれた本をよく読んでた。都筑道夫とか。彼女は、お父さんが仕事を辞められたのをきっかけにぼくの実家の近くに一家で越してきたんだけど、そのお父さんが亡くなっちゃって。もともと身体も弱かったし、父を亡くしたショックと心労とかも重なって、突然亡くなっちゃったんだよね。その従姉が亡くなる少し前に突然、冬目景の『イエスタデイをうたって』って漫画を送ってきたの。1巻から3巻まで。「大好きな漫画だから読んでほしい」って。
髙城 遠隔的な英才教育だったんですかね?
松永 そこまで密ではなかったんだけど、気にかけてくれたんだよね。漫画の『イエスタデイをうたって』は、ラブストーリーなんだけどめちゃくちゃじれったい話なんだよね。きっと従姉も胸がぎゅーってなりながら読んでたと思うんだけど。
髙城 松永さんって、兄弟がほかにもいるでしょ? でも、そのなかで「良ちゃん」にだけ送ってきたわけ? 「文化的なところは良ちゃんかな」と思ったのかな。
松永 彼女にはこの本は読んでほしかったな。ルミさん(髙城の母)にも読んでほしかったし。
髙城 「もしこの本を読んだら笑うだろうな」みたいな人も、本のなかに何人か出てきますよね。
松永 うちの親がいちばん笑うだろうけどね。「え? おまえの話が本に?」って(笑)
髙城 学費もたくさん払わされてね(笑)
松永 ていうか、こういう話してて、みなさんこの本を読む気になりますかね?
髙城 でも、そういうことしか書いてないから(笑)。しょうがなくない?
松永 そういう意味では、この本は「音楽書」とも言えないし、「エッセイ」なのかな?
髙城 確かに、良質なディスクガイドとして読むというアングルもありますよね。いろんなバンドが出てくるし、それぞれの話に曲が入ってきてるし、それをSpotifyで聴いたり、レコード探したりしてみるという楽しみ方もできるし。
松永 最初に林さんと打ち合わせしたとき、「章の終わりにディスクガイドとかはつけたくない」って言った。
髙城 確かにそういう構成になると、ちょっと違うよね。もっと個人的なものだし。
松永 可能な限り、文字だけの本にしたかったんだよね。noteを最初に選んだのも、文字の見え方がきれいだったからだし。だから、この本のかたちはベストです。
髙城 唯一写真があるのが章ごとの扉なんだけど、それが全部Rojiで撮られてて。著者近影もRojiで撮ったんでしょ?
松永 そうそう。
髙城 撮ったのがぼくの中学の同級生の廣田(達也)くん。この近影、すごくいいんですよ。鼻の下に指置いてね、「へへ」って言ってる感じ(笑)
松永 じつは「あの写真、加トちゃんぺみたいなんでやっぱりやめたい」って途中で林さんに言ったんだよね。そしたら、加トちゃんぺは(指が)縦だってわかって(笑)

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2015年以前、日本インディーズに牧歌的な雰囲気があった(髙城)

髙城 いや、このRojiの写真見て「Rojiもすげえボロボロになったな」って思ったんだよね。もう13年やってるからね。カウンターとかすごい傷があるなって思って。
松永 でもさ、それは出来立てのころを知ってるからだよね。
髙城 最初はそれがいやだったんですよ。すごいピカピカできれいなお店だったから。それまでは、ノラ猫が入ってきてハンバーグ盗んでくような汚ったない居酒屋で働いてたから(笑)。でも、その汚い雰囲気が好きで「こういう店がいいな」って思ってたから、いざRojiができてピカピカなのが「いやー、恥ずいなー」って感じだった。いまはそれが昔おれが働いてた店みたいになっちゃってるからね。
松永 そういうので言うとさ、おれは若いころ「なつかしい」っていう感覚がきらいだったの。同級生と会って、昔の話で盛り上がったりするのはいいけど、あとで気分が落ちるみたいな。でも、いまはちょっと変わってきてて、「なつかしい」ってのは悪い感じばっかりじゃないなって思うようになってる。
髙城 そうですよ。「ノスタルジーの粉を吸わずにはいられない」ですよ。それって田我流さんと対談したときにおれが言ったセリフなんだけど。
松永 まあ、わかる。ノスタルジーって自分の恥ずかしさと向かい合う感覚だったりするじゃない? それと向き合うのがいやだからおもしろな感じに持ってったり、引いた感じで見たりするけど、歳とってきて、そういう態度じゃダメだなと思うようになってきてる。そういう時期だから、この連載は書けたのかも。
髙城 いやいや、昔はよかったですよ。こないだ、ある雑誌でおれとYONCE(Suchmos)で「2010年代を振り返る」って企画で対談したんですよ。そのとき思ったのが、ceroでいうと『Obscure Ride』(2015年)より前の時代って、日本のインディーズにすごい牧歌的な雰囲気あったよな、って。それ以降はもうちょっとシビアな雰囲気になってきた。切磋琢磨しなきゃいけないし、スキルがないとどうしようもない、みたいな感じになって。その牧歌的だった2015年くらいまでの「上に上に」っていうよりも「自分たちのローカルを豊かにしていこうよ」みたいな流れって結構あったよなって、この本を読んでて思い出したりしたんですよね。それこそ星野(源)さんが松永さんの働くお店に来て「ぼくらのCD置いてくれませんか」みたいなことを言ってたとかね、すごい牧歌的じゃないですか。
松永 まあ、21世紀の初めにはもうインターネットはあったけど、まだ無邪気でのんびりしてたよね。もっと言えば、おれ自身も90年代に立ち返れば、ライターとしてやってくうえでもっと目指すべき道はあったはずだけど、そういう上に行くための情報もわかんないまま先の見えない雑誌を作ってたわけだから。それもまあ牧歌的だったのかな。
髙城 でも、そこもこの本に結構シンパシーを感じたところなんだよね。松永さんもそういう人にシンパシーを感じて行動したりするじゃない。そういうのってやっぱりおもしろいと思うな。

(2019年12月17日 HMV record shop)

髙城晶平(cero)(たかぎ・しょうへい)
ceroのボーカル/ギター/フルート担当。2019年よりソロプロジェクト “Shohei Takagi Parallela Botanica”を始動。その他ソロ活動ではDJ、文筆など多岐に渡って活動している。

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髙城晶平さんのソロ・ファースト・アルバム『Triptych』は4月8日発売です。

松永良平(まつなが・りょうへい)
ライター、編集者、翻訳家。1968年、熊本県生まれ。大学時代よりレコード店に勤務し、大学卒業後、友人たちと立ち上げた音楽雑誌『リズム&ペンシル』がきっかけで執筆活動を開始。現在もレコード店勤務のかたわら、雑誌/ウェブを中心に記事執筆、インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行う。著書に『20世紀グレーテスト・ヒッツ』(音楽出版社)、『コイズミシングル』(小泉今日子ベスト・アルバム『コイズミクロニクル』付属本)、編著に『音楽マンガガイドブック』(DU BOOKS)など。

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東京・神保町にある、文学・芸術を中心とした書籍と各種学校案内書を発行する出版社です。犀🦏のマークが目印です。

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