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文章を書くことは基本ひとりごと| 三好愛×畑中章宏 『ざらざらをさわる』『五輪と万博 開発の夢、翻弄の歴史』 刊行記念トーク(前編)

三好愛さん『ざらざらをさわる』(晶文社)、畑中章宏さん『五輪と万博 開発の夢、翻弄の歴史』(春秋社)の刊行を記念し、下北沢の本屋B&Bでトークイベントが開催されました。その中から一部抜粋し、前編と後編に分けて晶文社noteで公開していきます。
前半は三好さんと畑中さんを結んだ「諺のなかの子どもたち」、三好さんがはじめて装画を担当した『どもる体』について、そして三好さん初の著書『ざらざらをさわる』の執筆についてお送りします。

なぜこんな、すっごい、すごい絵ですよね。が、生まれてきたのか(畑中)

畑中章宏(以下、畑中) 僕と三好さんは、終わってからまだ1年は経ってないくらいなんですが、福音館書店の「母の友」という月刊誌があるんですね。非常にいい雑誌ですけども。
三好愛(以下、三好) あれ、いい雑誌ですよね。嬉しかったですもん、依頼いただいた時。
畑中 その「母の友」で、僕が連載させていただくことになって。「諺のなかの子どもたち」っていう連載になったんですけども。日本のことわざの中にね、子育てにまつわることとか、子どもはどういうものであるとかみたいなことわざがいくつもある。「三つ子の魂百まで」「可愛い子には旅をさせよ」「子どもは風の子」とか。それにあたってですね、イラストもあった方がいいっていうので、誰だったらいいですかねという話になった時に、三好愛さんでしょ! ってことでですね、三好さんにお願いした次第です。その時の三好さんのイメージっていうのは、伊藤亜紗さんの『どもる体』が出ててかなり話題になってました。出版に関わる人間にとっては『どもる体』のイメージっていうのがかなり大きい。内容もそうだし、この非常にインパクトのあるカバーがかなり話題になってたんで、お引き受けいただけるかみたいなことをですね心配していたんですけど、お引き受けいただいたんですね。
三好 そうだったんですね……!
畑中 この『どもる体』の反響はどのくらいだったんですかね? これが何年?
三好 今から、2年くらい前の2018年です。私、ずっと昔からイラストレーターになって装画が描きたいっていう思いが結構あったんですけど、全然なれなくて。依頼とかまったく無いまま20代を過ごしてて。
畑中 それまでイラストレーターとしては活動してなかったんですか?
三好 SNSにイラストアップしたりとかしてたんですけど、全然。使いにくいみたいなことをよく言われてて。
畑中 その頃の肩書きなんだったんですか?
三好 デザイン会社にずっと勤めてたんで会社員ですかね。
畑中 あ、会社員だったんですか。
三好 会社員かつ、絵はずっと描いてたんで一応イラストレーター、作家ですかね。
畑中 作家っていうのは美術作家?
三好 そうですね、美術画廊で展示とかしてたので。それで、『どもる体』でようやく装画の仕事が初めて来た、みたいな感じだったんですよね。
畑中 「ケアをひらく」って僕もずっと好きなシリーズなんですけど、なぜこんな、すっごい、すごい絵ですよね。が、生まれてきたのかっていう。
三好 依頼は「ケアをひらく」シリーズをよくデザインされてるオフィスキントンの加藤さんという方からで。その方がもともと私の絵を知っててくださって、白石さんに私の絵を勧めてくださって。『どもる体』が吃音についてのものなんですけど、吃音ってシリアスな雰囲気を醸し出しちゃうことだけど、この本は出来るだけそういうイメージにはしたくないっていう思惑が。
畑中 へー。
三好 そうなんです。そういう思惑があって。それで、既存のイメージにはとらわれないような感じで吃音を表現して欲しい、って依頼がありました。そのあと、最初にゲラを拝読して。
畑中 ゲラになってる状態のものを三好さんが読んだんですね。
三好 そうです。中に挿絵をふんだんに入れたいってことだったので、読み込みました。伊藤亜紗さんの文体がすごくプレーンっていうか、感情があんまり入らずに淡々と吃音について面白い視点で語ってくみたいな感じでした。その中で吃音当事者の方でダムタイプの高嶺格さんが出てらっしゃるんですけど、高嶺さんの言葉で「言葉の代わりに体が伝わってしまう」っていう一節があって、その文章をそのまま絵にしたら表紙の絵になるんじゃないかと思って、直訳するような感じで描きました。そしたら伊藤さんも喜んでくださって。

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畑中 編集の白石さんとか伊藤さんからこういうイメージとかではなく、三好さんがゲラを読まれる中で高嶺さんの一節がこの本のシンボルというか、カバーに相応しいんじゃないかなと思ったんですね。
三好 そうですね、それで描きました。
畑中 で、かなり反響あったでしょう?
三好 あ、そうです、私あんまり白石さんのすごさとかをわからないまま気兼ねなくこういう絵どうですかって出して、ぱっぱっぱーっていいですねってなって進んでっちゃったので(笑)。結構反響があってわりとびっくりしたっていうか、その『どもる体』を見たっていう編集の方から仕事が来るのがすごい多くなって。今でも、なんか仕事ほとんど『どもる体』経由の方が多くて。だから、あそこで変な絵描かなくて良かったー! と思って。失敗しなくて良かったー! ってすごい思いました。

ひとりごとを言っててもちゃんと相手の相槌の間とかを作って、次のひとりごとを言う(三好)

畑中 「諺のなかの子どもたち」でいうと、僕はねゲラになるまで全然見ない。三好さんが描いてきた絵を事前に見るっていうのはなかったんですよ。
三好 ラフも見てなかったんですか?
畑中 そうですよ。見ないですよ。僕もどっちかっていうと受け手になって、三好さんがね、僕の文章からどんな絵を描いてくださるのかなっていうのを楽しみに待ってました。
三好 えー嬉しい。
畑中 三好さんは、装画や挿絵を描く時に心掛けてることとかコツというのはあります?
三好 そうですね、読んだ時の第一印象っていうのを大事にしてます。「諺のなかの子どもたち」って結構特殊で、月ごとにどのことわざを取り上げるかっていうのはあらかじめ決まってたじゃないですか。
畑中 ある程度決まってたね。
三好 そうです、年間予定表みたいなものをいただいて。
畑中 あった、あった! ちょっとだけ変わったけどね。
三好 事前にことわざだけわかってて、たしか。なので、最初に次の月はこのことわざが来るっていうのわかってたんで、あらかじめそのことわざについてできるだけイメージを広げておいて、なんか下ごしらえをするみたいな。
畑中 僕の原稿が来る前にね。
三好 そう、しといて、畑中さんから原稿が来たら、原稿の第一印象でババっと料理するみたいな感じで描いてて。だから、自分が既に持ってることわざの印象と違う視点の切り口で畑中さんの原稿が来る時っていうのは、結構絵描いてても面白かったですね。あ、こんな風に読み解くんだみたいな。
畑中 それ、三好さんと切り口が違う確率ってどれくらいの確率だったんですかね。
三好 えー、そうですね、半分くらい。
畑中 半分くらいだったらよかったなあ。あ、こうきたか! みたいなのはありました?
三好 そうですね、「子どもは風の子」は、体が強い子どもの絵を描こうとしてて、でも子どもって神様的な立ち位置で昔捉えられてたっていう畑中さんの文章読んで、じゃあちょっとなんか妖精とか神様みたいな感じで展開してみよっかなというのはありました。

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畑中
 これ、1年間毎月連載したんですけど、連載ってそれまであったんですか?
三好 ないです。『どもる体』がほぼほぼちゃんとしたイラストの仕事初で、「諺のなかの子どもたち」がその次くらいに。
畑中 え、そうなの? じゃあ初連載? もしかして。
三好 そうです。
畑中 そうなんだ。なんか僕この時点ですっごく売れてる人っていうイメージがあったんだけど。
三好 いやいや、全然全然。福音館書店だ! みたいな感じでした。依頼を受けた時。
畑中 僕なんかね、『どもる体』のイメージがすごく強かったから、もうその時点で売れてる人っていうイメージを持っちゃってて、この連載の間に川上弘美さんの『某』があったり、ほかにも本屋さんの目立つところに置かれるような本とか。結構、三好愛現象みたいなことがあったんですけど、装画を担当した本っていうのはあと何冊ぐらいあるんですか?
三好 7冊ぐらいですかね。 
畑中 あ、なんか新潮選書のあれは、帯なの?
三好 あー、ありましたね。フル帯の『心を病んだらいけないの?』っていう。
畑中 興那覇潤さんと斎藤環さんのですね。とかって思っているうちにですね、文章とイラストの本が出てしまったというですね。僕、聞いてなかった。
三好 まあ、言ってなかったです(笑)。
畑中 結構衝撃を受けたんですよ。え? みたいな。文章も書くの? みたいな。かなりの衝撃が。どういう経緯があってですね、こんなことになったんでしょうか。
三好 もともと私の絵がわりと言葉を大切にしながら製作してて、畑中さんの連載もそうなんですけど。言葉だけでは伝わりきらないものを、言葉をもとに絵で描いてた。だから、その言葉に含まれるモヤモヤみたいなものを絵で表現してたけど、そのモヤモヤをちゃんともう一回言葉で説明したらどうなるかみたいなのを書いた文章群ですね。
畑中 それは、「アパートメント」の連載で、依頼ってこと?
三好 そうですね。「アパートメント」の管理人の鈴木悠平さんっていう方から依頼いただいて。
畑中 僕の中で「アパートメント」で一番イメージあるのは、はらだ有彩さんの連載。
三好 そうですよね。『日本のヤバい女の子』。出版系の人がわりと見るメディアみたいで。「アパートメント」の連載って2ヶ月だけなんです。2ヶ月間で1週間に一回書くみたいな。
畑中 ペース早いんだね。
三好 超大変でした。なんか。
畑中 週刊で2ヶ月か。ああ、2ヶ月で入れ替わるってそういうことか。
三好 そうなんです。人が入れ替わっていくみたいな。
畑中 それは400字換算で何枚くらい?
三好 いや、そんな文字制限とかはなくて、自由にブログみたいに書くみたいな感じで。私も自由に書いてて、そしたら、晶文社の編集者の方がそれ読んでてくださって。書籍化の話が来た時はびっくりしたんですけど。
畑中 文章ってもともと書く習慣っていうのはあったんですか?
三好 いや、義務教育程度です。
畑中 義務教育って高校とかで作文とか?
三好 そうです。卒業文集とか。高校生までは書いてて、大学とかは一切書かなかった。書かなくなりましたね。
畑中 藝大で油画科に行ったら別に文章書くことないもんね。
三好 そうですね。あんまりしてなくて。でもなんか、ひとりごとをめっちゃ言う癖があって。
畑中 『ざらざらざらをさわる』にもね、出てきますけどね。ひとりごとなんですね。
三好 すごい喋っちゃうから、喋る感じで書いたっていう感覚です。
畑中 その、ひとりごと話すときに、誰かに向けて話す? ただ一人で言葉を宙に投げ出すだけじゃなくて、誰か対象が、目の前にいないんだけど対象に向けてひとりごとを話すみたいな感じ?
三好 そうです、そうです。
畑中 すごくよくわかるって言うか、文章書くのって基本的にはやっぱりそっからって言う気がします。
三好 そうですね、他者がいますよね。
畑中 例えば、担当編集者であったりもするし、読者であったりっていう。特定の誰かっていうんじゃないけど、なんかイメージした人に向けて話しかけるというか、それこそ自分に対して書いてるっていうか。文章書くのって基本的にひとりごとなんだけど、自分で向かって誰か想定してっていうから、なるほどそういう風にして書かれてるって、ああ僕もそうだなと思って納得しましたね。
三好 そうかもです。なんか、ひとりごとを言っててもちゃんと相手の相槌の間とかを作って、次のひとりごとを言うとか。
畑中 そう、そうなんですよね。三好さんの言葉の間っていうかリズムみたいなのがなかなかこう心地良いっていうか。なんかこう三好節みたいなのがあるよね。
三好 ありがとうございます。
畑中 初めての本にしてはえらい文章組むなと思って感動しちゃったんですけど。ほんで、ちょっとうかがいたいなと思ったのは、僕の連載の場合には畑中が書いた文章に絵を添える、でも、この『ざらざらをさわる』の場合はご自身の文章に絵を添える。絵が先か文章が先かとかその順番とか、どっちが主とかみたいなこととか、その辺って三好さんの中ではどうなってたんですか?
三好 畑中さんのも含めて他の方の文章に対して絵を描く時は、その文章と私の表現の間合いみたいなのをすごい調節しながら描くんですね。『どもる体』とかだったら超近くまで寄って、翻訳するように描くとか。最近やった「MONKEY」でのアメリカの現代詩に挿絵を描くだったら超遠ざかって、自分の表現に最大限寄せて絵を描くとか、そういう距離感みたいなものを調整しながら書いてて。だから、自分の文章に描くっていうのは、なんていうか距離が近すぎて、逆に難しかったていうか、自作自演みたいな。『ざらざらをさわる』はわりと文章を大事にして書いてて、絵は結構自分でわかってしまっているみたいな感じですね。
畑中 三好さんにとってはそうですよね。読み手としてはね、一つ一つ文章も楽しめるし、絵だけ取り出しても楽しめるし、例えば、このね、空き巣? 空き巣くんの絵、可愛いとかね。なかなか楽しめるんですけど。三好さんはかなり苦労したというか。
三好 そうですね。他の人の文章と自分の絵が融合した時は新たな刺激みたいなものがあるんですけど、自分の絵と自分の文章が融合してもなんか刺激があんまりなくって、刺激がないなって思いながら(笑)、なんか、描いてましたね。


後編につづく
(2020年8月2日 本屋B&B)

三好愛(みよし・あい)
1986年、東京都生まれ。イラストレーター。ことばから着想を得る不思議な世界観のイラストが人気を集め、『どもる体』伊藤亜紗(医学書院)、『某』川上弘美(幻冬舎)をはじめ数多くの本の装画や挿絵を担当するほか、クリープハイプのグッズデザインも手がけるなど、幅広く活動している。
畑中章宏(はたなか・あきひろ)
1962年、大阪府生まれ。民俗学者、作家。著書に『柳田国男と今和次郎』 (平凡社新書)、『災害と妖怪』 (亜紀書房)、『先祖と日本人』(日本評論社)、『蚕』(晶文社)、『天災と日本人』(ちくま新書)、『21世紀の民俗学』(KADOKAWA)、『死者の民主主義』(トランスビュー)、『関西弁で読む遠野物語』(訳と解説/エクスナレッジ)ほか多数。


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東京・神保町にある、文学・芸術を中心とした書籍と各種学校案内書を発行する出版社です。犀🦏のマークが目印です。
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