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たった一着の服が、自分だけでなく見える世界さえも変える|【9/29発売】『すこやかな服』はじめに

9月29日発売マール コウサカ『すこやかな服』はじめにを先行公開します。
「健康的な消費のために」
という姿勢のもと、着た人の気分が高揚する美しい服を世に送り出し続けるファッションブランド「foufou」実店舗を持たずに全国で試着会を開催セールをやらない……など新しい販売スタイルも注目を集めています。

服を買ってくれる人も作り手も納得のいく洋服や仕組み作りのためにfoufouがやっていること、さらに日々「気持ちよく消費するため」にはどうしたらいいのか?
本書発売前に、ぜひ「はじめに」をご覧ください。

はじめに

 2016年の夏、実家の6畳程度の自分の部屋で専門学校の課題もやらずに、糸まみれになりながら数着の服を作った。
 数日後、東京・丸の内で当時福岡から出てきたばかりの写真家、井崎竜太朗氏にお願いし、寝ずに作った服を撮影した。7月のうだるように暑い日だった。
 自分のインスタグラムに作った服を載せたら反響が少しあったので、無料で使えるオンラインストアに登録して商品を並べた。それっぽい感じがしてきた。
 販売開始の21時、たった数着の服は一瞬で完売した。
「注文が入りました」というメールがスマホの画面にいくつも表示されて鳥肌が立った時の感触を今でも覚えている。
 あの瞬間の感動は今思い出しても、これまでのどんな経験より震える。
 
 僕はこの時無限の可能性に気づいてしまったような気がする。

 インターネットを使って、会ったこともない遠くの街に住むどこかの誰かに、服が売れた。僕は何かの賞をとったこともなければ、アパレル業界でずっと働いていたわけでもない。名も無い服飾学生だった自分の作ったものを必要としてくれる人がいたこと。
 それだけでも何だか生きていてよかったなと思えた。これまでの人生が初めて肯定された瞬間だった。

 10人が必要としてくれたものはきっと、100人が必要としてくれる。
 100人が必要としたものはきっと、1000人が必要としてくれる。

 小さな丘をヨイショヨイショとハイキングを楽しむように登ったら、その奥に大きな山を見つけた気分。
 その山は美しく霞んで見えた。
 この丘の頂上でさえこんなに心地がいいのに、あの山の上からはどんな景色が見えるんだろう、どんな感情になるんだろうと思ってしまった。
 しかし、この先の山を登るには、あまりにも自分の装備が足りないことに気づいた。
 それでも登らずにはいられなかった。論理的に説明することはできなかったけれど直感に従うしかなかった。始まってしまったのだから!
 コツコツ地道に続けていけば、もしかしたら1万人が必要としてくれるかもしれない。それだけ服が売れたら、きっとそれで生きていけるかもしれない。
 ましてこんな形のブランド聞いたことがない、これが仕組み化されたらすごいことなんじゃないか?

 コンセプトは始める前から決まっていた。ずっと思っていたことだ。
 2011年の東日本大震災以降、「量より質」といわれる時代で、いいものを持ちたい、そんな気持ちはきっとみんなあるはず。
 しかし、アパレルにおいては安価でも品質もよく、〝こだわりのあるいいもの〞と言われるものの良さと、そうじゃないものとの明確な違いが素人目線ではわかりにくいのが事実だ。
 さらにECモールの出現によって選択肢が増えすぎて逆に自分で選ぶことが難しい。
 それに思想や価値観には共感できても、この時代に1ルック20万円くらいする服を毎シーズン買ったら、メーカーにとっては正しく作られたものを販売できていい気持ちになれるのかもしれないけれど、自分の生活が健康的じゃない気がする。
 値上がりし続ける消費税や電気代、不安な将来への貯蓄。現実的なあれこれを考え始めると、服が大好きという人ならともかくとして「いい服を買おう」なんてかなり優先度が低いのではないか。
 とはいえファストファッションだけじゃあファッションの魔法をかけられてしまった僕のような人間は満足ができないんだ。

 新しい服に袖を通して鏡の前に立ったときのあの感覚がやっぱり好きだ。美しい服を身に纏うと背筋が少し伸びる。
 鏡を見ると、知っている自分なんだけど知らない自分が目の前にいる。「こんな自分もいいかも」と少し気分が上がる。
 外に出ていつもの道を歩き出す。布の弛みを感じる、肌に擦れる繊維が心地よい。
 どうしてか街の景色も変わって見える。いつもよりキラキラしている! 世界はきっと素晴らしい!
 街行く人に挨拶をしたい気分になる。まるで自分は映画の主人公だ!
 新しい服を纏った自分を見せたい人がいる、会いにいってしまいたい!
 たった一着の服が、自分だけではなく見える世界さえも変えてしまうことを知っている。くるくると回ってダンスするように。
 
 崖っぷちの時代でも関係ない、税金の値上がりも面倒な上司のこともインターネットで起こる誰かの炎上ごともどうでもいい。
 自分から溢れ出る高揚感は、日常を揺らす。
 日々は揺れて世界は美しくなる。
 自分がこの世界の中心。それでいいんだ!
 
 こんな時代だからこそだ、服でファッションしなくてもいい時代にこそだ。
 服でファッションを楽しんでもらいたい、僕が楽しみたいんだからきっとそんな人はいるはず。
 それならなるべく手の届く価格で、なるべくおしゃれでやりすぎない、自分の価値観にフィットした人がものづくりをしているなら、試してみたいと思ってもらえるだろうか。
 そして買ってくれた人も作ってる人も売ってる人もハッピーでヘルシーな関係でいれたら最高じゃないか。
 そうだ、これがコンセプト。
 誰かの「健康的な消費のために」。


帯あり


『すこやかな服』マール コウサカ
発売日:9月29日
本体価格:1500円(+税)
ページ数:192ページ
判型:四六判
ISBN:9784794971944
出版社:晶文社
https://www.shobunsha.co.jp/?p=5849

カバー写真:井崎竜太朗
ブックデザイン:川添英昭

ご予約はこちらから↓

https://books.rakuten.co.jp/rb/16440991/?l-id=search-c-item-img-01(楽天ブックス)

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784794971944 (版元ドットコム)

<目次>
プロローグ
はじめに

第1章:foufouのこれまで
ファッションなんて大嫌い。/ある本との出会い/服作りは楽しい/二度目の就職活動/天才たち/インターネットの中に/6畳の部屋からインターネットで誰かに届ける/はじめての販売/はじめての量産/ステイトオブマインドとの出会い/はじめての挫折/「試着会」と「ライブ配信」/これからのfoufou/無人の試着会/インターネットっぽいことでリアルで、リアルではインターネットっぽいことを

第2章:foufouの姿勢
試着会という取り組み/ライブ配信はエンターテイメント/言わないけどメイドインジャパン/セールはしないで売り切る/在庫リスクを背負うこと/数字は追わない、数字に追われない、数字と追う。/明るい機会損失/即決しないで欲しい/お客さんは神様じゃない/機能的じゃない服について/再販はライスワーク、新商品はライフワーク/お客さんの要望をどこまで聞くか/THE DRESSシリーズ「退屈な日常をドレスで踊れ」/夏は汗をかくのもシワになるのも普通なんだからいいじゃないか!「夏をドラマチックに纏う方法」/売れる足音/顔が見える職人/試着会はサッカーに似ている/foufouの名前の由来/世界一小さくて世界一大きなブランド

第3章:僕の姿勢
本は重たいSNS/アイディア/矢面に立つ覚悟はあるか/No Happening No Life/デザインすること/合理的で効率がいいだけじゃ人生は楽しくない/夢見る日用品/ものを買う度に意味を求めすぎると疲れちゃう/僕らの役割/呪いを解く服/頑張らなくても続けられることを頑張ればいい/こだわらないことに一番こだわる/手元にあるカードが何か考える/八百屋みたいな服屋/インターネットなのにリアル/フックが大事/感性のチューニング/THE DRESS 500/あなたの家のドアを開けた、いつもの道がランウェイ。/「勘違い」されることを恐れないために「言葉」で伝え続ける/変えてはいけないことを変えないために、変わり続ける/やっぱりこれがfoufouのコンセプト

著者:マール コウサカ
1990年生まれ。東京都出身。大学卒業後、文化服装学院のII部服飾科(夜間)に入学。2016年、在学中にファッションブランド「foufou(フーフー)」を立ち上げる。細部までこだわった美しい服はもちろん、今までにない新しいスタイルの販売方法が注目を集める。それは実店舗を持たず、製品は自身のSNSで公開し、全国各地で試着会を開催。その後、オンラインストアでのみ販売するというもの。今作が初の著書になる。https://note.com/foufou

* 本書『すこやかな服』の著者印税は全額、株式会社ステイトオブマインドの職人育成アトリエの運営にあてられます。

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東京・神保町にある、文学・芸術を中心とした書籍と各種学校案内書を発行する出版社です。犀🦏のマークが目印です。
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