第10回 山の手入れについて
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第10回 山の手入れについて

木の価値を高めるための方法―その3

 林業において、「山を手入れして木を大切に育て続けること」は最も重要なことです。これまでこの連載では、「丸太を加工して売ること」や「自分自身の発信力を高めて物語を発表していくこと」など、木材の価格変動に一喜一憂しなければならない事業構造から脱却するために私が大切だと思うことについて書いてきました。しかしこれは、取得した山(イシタカ山)の状況も大きく影響しています。

 イシタカ山の中でも特に荒れてしまっていた最難関のエリアは、倒木等によりもはや昔の姿を想像するのも難しいほどの状態となっていましたが、よく観察してみると、もともとはスギ・ヒノキの人工林であったようなのです。林齢は約90年。つまり、90年くらい前に当時の持ち主さんが小さなスギ・ヒノキの苗木を植え、良い山をつくるよう取り組んだ痕跡を見ることができるのです。

イシタカ山の最難関エリア

(イシタカ山の最難関のエリア)

 理想を描いて一度はトライしたのでしょうが、どこかのタイミングで手入れをパッタリとやめてしまい、それから長い年月が経ったために、現在では目も当てられないほどボサボサの状態に荒れ果ててしまいました。かろうじて生き残っている木々もツルに巻かれたり、虫に食われたりしていて、材木としてはほとんど価値のないものばかりです。自然の摂理を痛感するとともに、「手入れをしないとこうなってしまう」という経験知も深めることができました。

 当然ですが、そんな荒れ山を少し整備したぐらいで収益性の高い山ができるわけはありません。ごく僅かな木を伐り出し、丸太のまま売ったところで労働に見合う対価にはなりませんし、それを仕事として成立させるのはとても難しいことです。

 私がこれまでに語ってきた方法は、そんな一般的にほとんど価値のない山(木)にもどうにか光を当て、まったく新しい別の価値を与えるために選ばざるを得なかった、いわば変化球的な方法論であると言えます。


林業の基本は山を手入れし続けること

 まともな経済活動をするための山として、イシタカ山はもはや完全に手遅れの状態でした。私にとって、ボサボサに荒れた山で作業をすることは基本的に楽しいことではありますが、体力的にそこそこキツい作業をしている割には、施したことが誰かに評価されたり、目に見える形ですぐ売り上げにつながったりすることがほとんどないので、やっていることが不毛に感じられ、「私は一体何をやっているんだろう?」と思うことがあります(笑)。

 条件の悪い山での作業に慣れていると、丁寧に手入れされたよその美しい山を見たときとてもうらやましく思います。美しい山は、植えられた一本一本の木々が見るからにまっすぐで、健康的に育っています。適度な木漏れ日があってそれを頼りに多様な下草が少しずつ生えています。空間的に整っている感じで、その中で人が作業するのにも安全面や効率面で非常に都合がよさそうです。

木漏れ日が心地よい

(まっすぐ育っている山。木漏れ日が心地よい)

 イシタカ山と比べてみれば、その差は一目瞭然です。まさに雲泥の差。このような美しい山を見ると、山を手入れして木を大切に育て続けることがいかに重要であるかを考えさせられますし、それこそが林業の本質であったことに改めて気づかされます。本来、林業の連載で「山を手入れして木を大切に育て続けること」は、いの一番に語られるべきことなのです(笑)。


山の木を育てるとはどういうことか

 林業が他の産業と大きく異なるのは、投資費用に対してリターンを得るまでにとてつもなく長い時間が必要になる点です。苗木を植えてから育った木をまとめて収穫するとしても、50年、100年といった時間が普通にかかります。つまり、今私たちが山に施したことの成果を摘み取るのは子や孫、あるいはそのあとの世代となり、そのころに私たちは生きていないかもしれないのです。

 逆に言うと、今私たちが山の木を伐って稼ぎを得ることができているのは、収益性の高い山を現代に残してくれた先人達の苦労の賜物です。山の木を育てるということはその連綿と続くリレーを止めることなく回していくということにほかなりません。とても根気がいる産業なのです。

 さらに、林業をいっそう難しいものにしている要因は、山の木を育てるためには時間だけではなく手間もかかるという事実です。苗木を植えたら植えっぱなしではなく、立派な木に育つまで手入れをし続けなければならないのです

 地域や土地の条件により差はありますが、一般的なスギ・ヒノキの人工林を例にすると、木を育てる過程では以下のような作業工程が必要とされています。(※50年生の収益性の高い立派な山をつくると仮定した場合)

・地拵え=植栽をするために枝葉等を片付ける
・獣害防護柵の設置=植栽した苗木がシカ等にかじられないように柵を設置する
・植栽=苗木を植える
・下刈り=植えた苗木を被圧する雑草を刈り払う(植栽後5~7年まで毎年1回か2回)
・つる切り=植えた苗木に巻き付くつるを取り除く
・裾払い、枝打ち=余計な枝を切り落とす(3回~)
・除伐=目的外の低木等を伐り除く
・雪おこし=雪が積もって倒れた木を縄で引っ張りもとに戻す(雪国限定)
・間伐=込み合った木を間引く(3回~)
・巡視=異常がないか見回る(いつも)

地拵え=植栽のための枝葉の片付

(地拵え=植栽のための枝葉の片付)

 このように文字にしてしまえば数行で説明を済ますことも可能ですが、実際にはどれもたいへんな手間のかかる作業ですし、広い面積で行うとなればなおさらです。私は、林業の事業体で働くようになってから、一部を除いてこれらの作業をほとんど経験させていただき、そのたいへんさ(体力的なキツさ、危険度の高さなど)を実感しました。こういった作業を一つ一つ根気強く施していかなければ、立派な山を後世に残すことは絶対にできません。


枝打ちと間伐は特に重要だと思う

 これらの作業は、どれをとっても重要であることに違いありませんが、私が特に重要だと感じるのは、「枝打ち」と「間伐」です。

 枝打ちとは、余分な枝を切り落とすこと、と先ほど簡単に説明しましたがその目的はいくつかあって、一つは「節の無い材をつくること」です。

枝打ち、間伐がされていない山

(枝打ち、間伐がされていない山)

 木は樹皮のすぐ内側にある形成層というところで細胞分裂をすることで太っていきます。枝打ちをすることであらわれた枝の切断面は木が太る過程で新しい組織に巻き込まれていき、やがて外側からは見えなくなります。さらに木が太くなってからその木を収穫し、枝打ちによる枝の切断面の外側で製材をかければ見かけ上節の無い材をとることができるのです。節の無い材は建材業界で重宝されており、高値で取引されています。必然的に節の無い材がとれる丸太も高値で取引されますので、枝打ちを施すことはお客さんのニーズに合った良い木を提供するために必要な工程であると言えます。

 枝打ちのもう一つの目的は、「枝の枯れあがりを防ぐこと」です。単一の樹種が等間隔で植えられている人工林では、木の成長とともに全体が過密状態になり、枝と枝が干渉するようになります。梢付近の枝には陽の光が当たりますが、光の当たらない低いところの枝は次第に枯れていきます。枯れた枝を放置しておくと、そこにカミキリムシ等が卵を産み、ふ化した幼虫が幹の中に入り込むことで、いわゆる「虫食い材」にしてしまうのです。一度虫に食われた木は元の状態に直ることはなく、建材としても価値が半減してしまいますので、これを防ぐためには枝が枯れてしまう前に切り落とす必要があるのです。

 続いては間伐について。これもめちゃくちゃ重要な作業です。間引きをして混みすぎた状態を解消することで、残された木々が太れるだけのスペースを確保するのが大きな目的です。結果的に全体の風通しが良くなったり、光が取り込まれ下草が繁茂することで土砂流亡がおこりにくくなったりと、副次的な効果も期待できます。

 また間伐には「選別」という別の目的もあります。様々な形質の木が乱立している状態から、将来的に良材になる見込みがないものや、極端な形質のものを取り除いていくことで、良材になる見込みがある木を残しながら山全体の均質化を図るのです。

極端な形質の木を取り除く

(極端な形質の木を取り除く。間伐前の山)

間伐後の山

(間伐後の山)

 この「枝打ち」と「間伐」は、サボった場合のツケが大きい作業だと思っています。やらないでおくと加速度的に山が荒れていく印象があります。やればいい山が残り、やらなければ荒れていく。山の姿を左右する重要な作業であることは間違いありません。であるからこそ、「荒らさないため」という消極的なねらいではなく、「いい山を残すため」という積極的なねらいを持って山の手入れをしていきたいところです。


イシタカ山の50年後、100年後

 イシタカ山が立派に手入れされた収益性の高い状態であったら、もっといろいろなやり方があっただろう、なんてことをたまに考えちゃいますが、あまりないものねだりをしていても仕方ありません。私は、今のイシタカ山だからできることを引き続き泥臭く続けていく所存です。「制約があるから新しい価値観が生まれる」と誰かが言っていた言葉を信じていきたいです。

 私は、体を動かし汗を流して働くのがわりと好きな方なので、きっと50年後も山に通って手入れを続けていることと思います。そしてその頃には、イシタカ山を美しく、収益性の高い山に転換し、次の世代にバトンタッチできるように頑張りたいです。

 100年後、当然私は生きていませんので、その頃の担い手がどうすればよいか迷わないで済むような道標をつくっておくことも重要だと思っています。

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イシタカ
28歳のきこり/山主。神奈川県の水源地域、山北町で取得したボサ山を自力で整備しながら副業自立型の小さな林業を実践・発信していきます。林業、気安くオススメはしませんが格好いいところ見せたいとは思います。twitter ID:@ishidatakahisa



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