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第7回 山には危険がいっぱい(山仕事の危険について)

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私がおちいっているジレンマ

 担い手不足に悩んでいる業界で働いている人ほど情報発信が必要だ、という考えのもと、これまでTwitterを中心にコツコツと情報発信を続けてまいりました。おかげさまで、徐々にフォロワー数も増えており、それに伴って私が発信することが届く範囲も広がってきました。最近では、リアルの世界でも、「Twitterを見ています」とか、「参考にさせてもらっています」などと声をかけていただく機会が増えてきて、自分の発信が少なからず誰かに影響を与えていることを実感する場面があって、本当にありがたいことだと思っています。

 林業について情報発信する意味はいくつかあると思います。まだまだ広く知られていないこの珍しい業界に、より多くの人が関心をもつきっかけを作ること。そして、国産の木材製品を意識的に購入するなど、間接的にでも林業を応援するためのアクションを起こす人が増えること。私としてはその辺りに期待して発信をしているのですが、さらにその先の到達点があるとすれば、「林業に携わる人が増えること」も挙げられるのかなと思います。しかし、これに関しては個人的にジレンマがあります。

 他の業界であれば、自分がやっている仕事にやりがいを持っている人が、一緒に働く仲間を増やしたい!業界の裾野を広げたい!と考えるのは自然なことかもしれません。しかし、林業の場合は少々事情が違っていて、どうしても手放しで同じように考えることができない歯がゆさがあります。理由はシンプルで、林業はとても危険な仕事であるからです。

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(枯れた木が倒れてくるかもしれない)

 林業の裾野が広がることは基本的にいいことだと思います。チェンソーや刈払機といった危険な道具をきちんと扱える人が増えたり、地域の山の資源を適切な方法で採取し、活用できる人が増えたり。ひいては、木材産業の市場規模が広がったり、他業界からの参入によってこれまででは起こり得なかった技術革新が生まれたりするかもしれません。

 しかし、こうしたことは一歩間違えれば、きちんとした知識を学ばず、また基礎的なトレーニングを積まずに林内作業を始めてしまう人を増やしてしまうことにもなりかねません。それはマジで本当に危険なことだと思っています。仲間は増えてほしいけどむやみに増えてほしいわけではないのです。

 だから、私が情報発信をすることで、林業に関心を持ち、この業界に挑戦してみたいと考える人が現れることは、嬉しい反面、背徳感と罪の意識も同時に芽生えてしまうのです。自分は他人をこんな危険な業界にいざなってしまったと・・・。ちょっと考えすぎだと思われるかもしれません。でも私の性格だとどうしてもそのような思考回路になってしまいます。

 偉そうな言い方になってしまいましたが、林業の世界で情報発信をすることは、そういったリスクをはらんでいることを心得る必要があります。私がいい加減な木の伐り方を動画投稿して、マネをして怪我をされたらめちゃくちゃ困るわけです。怪我で済めばまだいいですが、林業は作業の性質上、下手したら即死なんてことも十分あり得ますし、他人に被害を与えてしまうことだってあるのです。

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(急斜面での作業)


林業の労働災害について

 では、実際に林業がどれくらい危険な仕事なのかを「数字」を追って見ていきましょう。厚生労働省と林野庁が発表している、日本国内における令和元年度の労働災害発生状況を産業別に見ていくと、4日以上の休業を必要とする死傷災害にあった人の人数が、「第三次産業」で6万208人、「製造業」で2万6873人、「陸上貨物運送事業」で1万5382人、「建設業」で1万5183人。「林業」は1248人となっています。それぞれの産業によって働いている人の人数が違うので、コレだけ見てもあまりピンとこないかもしれません。

 続いて、年千人率というものを見ていきましょう。これはその産業の労働者1000人あたりに死傷災害にあった人の割合がどれくらいかを表した数値です。令和元年度の年千人率を見ていくと「林業」が20.8、「木材・木製品製造業」が10.6、「鉱業」が10.2、「建設業」が4.5、「製造業」が2.7となっています。

 年千人率のほうからわかるとおり、林業は2位以下を大きく引き離しダントツの1位となっています。林業は、他の産業と比べると働いている人の数が圧倒的に少ないので、「割合」で考えるとダントツトップに躍り出てしまうのです。これは、林業がどれぐらい危険な仕事であるかを示す根拠になっています。

 さらに、さきほど書いた死傷災害者数のうち、林業で死亡した人の数は令和元年度では33人となっており、少ない労働人口の中でこれほどの尊い命が亡くなっていることに同業者として意識を向けないわけにはいきません。そんな数字だと思っています。

 それでも近年は、安全に関する規則が厳しく変わってきたことや現場の努力によって、昭和の一時代と比較すれば労働災害の割合は減少傾向にあります。危険な仕事でも災害をゼロに近づけることができるという事実は、ある意味で希望だと思います。


ツツガムシ病にかかる

 林業の労働災害というと、伐採作業中の事故が最もイメージされやすいと思います。実際にそのとおりなのですが、一歩山の中に入って作業をすると、それ以外の場面でも至るところに災害のタネが転がっていることがわかります。

 特に、山の中では危険生物に遭遇する恐れがあります。むしろ常に囲まれている状態であると言っても過言ではありません。例えば、クマ、イノシシ、スズメバチ、マムシ、マダニ、ツツガムシ、毛虫、ヤマビル、アブ、ムカデ・・・という具合に、ざっと思いつくだけでもこれだけ挙げることができます。人間を死に至らしめることができるような生物ばかりです。チェンソーをブンブン動かしていれば、クマやイノシシが向こうから近寄ってくることはまずないと思いますが、チェンソーを使わない作業だってあるわけですし、それ以外の生物はいつ我々に攻撃を仕掛けてくるかわかりません。

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(スズメバチ)

 実は今、私はこの文章を病床で書いています。ツツガムシというダニの一種に噛まれたことにより、奇しくもツツガムシ病にかかってしまい、つい3日前まで死にかけの状態を体験していたのです。ツツガムシ病は大変つらいものでした。
 
 ある朝、突然38度の熱が出て、翌日になっても熱が下がらなかったので、仕事を休み最寄りの診療所を受診しました。その日は、新型コロナウィルスの感染が再度拡大し始めた頃だったので診療所の中にも入ることができずPCR検査のみを受け、解熱剤を処方されて帰宅しました。

 翌日PCR検査の結果が出て陰性だとわかり、「でしょうね!」と思いました。明らかに風邪の類とは性質の違うつらさだったのです。喉も痛くなければ咳も出ない。ただひたすら頭が痛い! 心拍に合わせて太鼓のバチでずっと叩かれているような激しい頭痛が続いていました。

 何かがおかしいと思って2軒目に受診した別の医院でも確信をつく診断は得られず、強めの解熱剤をもらって帰宅。薬を飲めば一時的に症状は和らぎますが、薬が切れれば元通りです。頭が痛くて眠れない日が2日続きました。食事も、果物しか食べられなくなっていました。
 
 発症して7日目、3軒目に大きめの病院を受診しました。そこでツツガムシの噛み跡からツツガムシ病と診断され即入院。その時は自力で立っていることもできず、ストレッチャーで病棟に運ばれました。

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 入院中の治療は抗生物質の点滴が中心で、すぐに効果が現れました。入院2日目には歩けるようになりましたし、3日目には点滴の針も外されて飲み薬に切り替わりました。

 原稿を書いているのは4日目ですが、ほぼ回復した感じです。5日目に晴れて退院の予定となっています。現代の医療には本当に感謝しかないな・・・と思います。命を助けてくれてありがとうございました。

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 ツツガムシ病は、病原菌リケッチアを保有したツツガムシの幼虫に吸着されることにより発症します。吸着後1~2週間で発熱、頭痛、関節痛、倦怠感などが現れ全身に紅斑点が出る場合もあります。治療が遅れると脳炎や肺炎を合併したり、全身の血管に血栓ができたりして死に至ることもある恐ろしい病です。

 その昔、医療が発達していなかった時代の人達には症状のつらさから呪いや妖怪の仕業だと考えられていました。私もなってみて思いましたが昔の人達がそのように考えた理由がよくわかります。頭に鬼が住み着いたのではないかというぐらい頭が痛かったです。もうこりごりだ~と思います。

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(ツツガムシの噛み跡)


山仕事で災害にあわないために

 私はツツガムシにやられて病床に伏してしまいました。お医者さんの治療により命が助かり、こうして元の生活に戻れるようになりましたが、山仕事で起こる災害の中には、一刻の猶予も許さずに即死してしまうような事例も普通に存在します。そんな悲惨な事故にあわないためにも、一人ひとりが努力出来ることはあると思います。中でも、個人的に「これは特に」と思うものを以下の通り3つ挙げてみました。

① 基礎的なトレーニングを積む
 これは努力するべきことと言うよりも、山仕事を本格的に始める前に当たり前に通過するべきことかもしれません。基礎的な林業の知識や技術は机上の勉強のみならず、実地で時間をかけて学ぶ必要があります。今は昔と違って、各地に林業アカデミーや大学校が開設されていて、見識のある方々からじっくり学べる機会も増えてきていることと思います。また林野庁では事業体に就職した新人に対する研修制度を設けていて、スタートアップ期に基礎的なトレーニングを積み重ねることができます。私自身もこれを活用させていただいていますが、これは本当に有り難い制度だと思います。

② 技術の研鑽をやめない
 経験を積んで、技術がある程度熟達してくると誰でも自信がついてきます。その自信は時として「自分はできるから大丈夫」という根拠のない過信に繋がります。そんなとき、災害は近づいて来るのではないかと思います。

 どんなときも初心を忘れず、自分の能力を疑い、時には怖がり、決して調子に乗ることなく、技術を探求し続ける姿勢が求められます。胸に手を当てて自分自身にも言い聞かせたいことです。

③ いざというときに対応できる体力づくり
 これは意外に語られないことですがかなり大事なことだと思います。どんなに安全対策を講じて注意をして作業を行っていても、災害が起こるときは起こります。そんなとき、最終的に自分の身を守るのは紛れもなく自分です。

 例えば、山を歩いているとき大きな枯れ木が自分に向かっていきなり倒れてきたとします、瞬発的によけられれば生存、よけられずに直撃すれば死亡となります。そのコンマ何秒かの間にどのような動作をとるかによって生きるか死ぬかが決定されてしまうのです。

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(危険な木)

 筋力や持久力、柔軟性やバランス感覚は、トレーニングをすることである程度鍛えられることを考えると、ここの水準を高く保っておくことに越したことはありません。突発的に発生する危険を回避できる確率が上がるからです。

 私自身、そういったトレーニングがきちんとできているかというと、恥ずかしくなってしまいますが(つまり満足にできていないのが現状ですが)、自分の身を守るためにも襟を正して改めて体力づくりをしなくてはならないと思いました。

 余談ですが、危険を回避するための筋力、バランス感覚を身近なところで鍛えるには鉄棒運動、持久力はランニング、柔軟性はストレッチが効果的であると個人的に考えています。また、免疫力を高めるための健康管理も大切です。ツツガムシ病のような、体の内側から攻めてくる災害に抵抗する力を是非とも高めたいところです。

 林業という仕事はそもそも、重たい木を伐り倒したり、重機を使ったり、急斜面で作業したりと、仕事の内容がどうしても危険な性質を持っています。努力をすることで災害をゼロに近づけることはできるかもしれませんが、ゼロにすることはできません。起こるときは起こります。これはもう、林業をやる以上逃れられない普遍的な原則のようなものなので、林業を「危険ではない職業」にするのは難しいです。

 その上で、安全に作業を行うためにできることは全部やるべきです。

・作業の方法は適切か
・作業の方法に対して自分の能力は十分熟達しているか
・効率を重視するあまり安全を軽視した手順をとっていないか
・道具はきちんと整備されているか
・仲間同士で情報の伝達ができているか
・安全装備を適切に装着しているか、などなど・・・

 チェックポイントは際限がないくらいにたくさんあるかと思います。このあたりのことは基本的なことだと思いますが、この基本的なチェックを怠ったときに災害はじわりじわりと近づいてきます。やろうとすることに対して、常にポジティブな意味での疑いを持って取り組むことが重要です。

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(道具はきちんと整備されているか)

 林業の世界に入って数年。私は、ツツガムシに噛まれて病床に伏したことを除けば、大きな災害にあうことなく今日まで生きのびることができました。それはある意味で運が良かったと言えます。でもいつ何が起こるか本当にわかりません。明日死ぬかもしれません。林業を一生の仕事にしようと腹をくくりましたが正直に言うとめちゃくちゃ怖いです。この怖さの正体をあれやこれやと考えて、林業の災害について考えを巡らせることは一生終わらない宿題をやらされている感じがします。

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イシタカ
28歳のきこり/山主。神奈川県の水源地域、山北町で取得したボサ山を自力で整備しながら副業自立型の小さな林業を実践・発信していきます。林業、気安くオススメはしませんが格好いいところ見せたいとは思います。twitter ID:@ishidatakahisa
東京・神保町にある、文学・芸術を中心とした書籍と各種学校案内書を発行する出版社です。犀🦏のマークが目印です。