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記憶の曖昧さ経験のおぼつかなさ| 三好愛×畑中章宏 『ざらざらをさわる』『五輪と万博 開発の夢、翻弄の歴史』 刊行記念トーク(後編)


三好愛さん『ざらざらをさわる』(晶文社)、畑中章宏さん『五輪と万博 開発の夢、翻弄の歴史』(春秋社)の刊行を記念し、下北沢の本屋B&Bでトークイベントが開催されました。その中から一部抜粋し、前編と後編に分けて晶文社noteで公開します。
後半は三好さんの描く不思議な生き物たちの出自とは?、畑中さんの著書『五輪と万博』について、そしてイベントタイトルになった「記憶の曖昧さ経験のおぼづかなさ」についてお送りします。

生きていく中で割り切れないことが多すぎるというか。生きるのって大変だなって(三好)

畑中 三好さんってもともと東京の方?
三好 はい。武蔵小金井です。
畑中 中央線の、中央線の中では地味でないか。何市になるんですか?
三好 小金井市ですね。
畑中 どんなところなんですか? 三好さんから説明すると。
三好 東京なんですけど、23区外で、若干微妙な場所だったな。
畑中 とらえどころがない場所ではあるんだよね。武蔵小金井っていうくらいだから、武蔵野ではある。三鷹くらいまではかなり街。ボートに乗ると絶対男女が別れるっていう井の頭公園がある吉祥寺があって、武蔵境っていうこれがまた微妙なね、駅がございます。それで武蔵小金井と国分寺があって西国分寺があって国立があって。国立とかっていうのはかなりね学園都市っていうか、計画された放射状になった綺麗な街です。まあ、国分寺もなんとなくイメージがあるんだよ。そういや椎名誠のね『さらば国分寺書店のオババ』とか。あと村上春樹がジャズ喫茶やってた。
三好 ピーターキャットですよね!
畑中 国分寺でもやってたよね?
三好 そうそう、そうです。
畑中 だから国分寺って、わりとそういうある種の文化がある。国立は一橋大学があって、いい学園都市というか。吉祥寺は成蹊があったりもするけど、武蔵小金井で代表的なものって江戸東京たてもの園?
三好 なんですかね、あ、ジブリの会社が東小金井にあります。小金井のキャラでコキンちゃんていうのがいて、それは宮崎駿が作ってくれたみたいです。
畑中 そうなんだ。コキンちゃんてどんなキャラ?
三好 なんか金太郎みたいなキャラでした。
畑中 あ、コキンって小金井の「金」なんだ。それは小金井市民には結構浸透してるキャラなんですか?
三好 そうですね、一応可愛いです、ゆるくて。
畑中 なんで僕がそんなに武蔵小金井にこだわっているかと言うと、実を言うと『五輪と万博』のサブタイトルをある時期まで「郊外の記憶」みたいなことを考えていたこともあったりして。本屋B&Bがある下北沢なんかも完全に郊外だよね。わりとニュータウン的な郊外っていうのは社会学の対象にもなってたりするじゃないですか。ニュータウンって結構ニュータウンで生まれたことがアイデンティティみたいな人がいたりとかさ、あるけど。小金井ってなんかその、23区でもないし、ニュータウンでもない。こう、境界、ボーダー的な。
三好 そうですね。中途半端ですね。
畑中 そういうのが、僕はなんとなくね、三好さんが小金井出身だって聞いたときに、持ってるボーダー性みたいなものが、
三好 あー、ボーダー性。
畑中 アイデンティティになってんじゃないかなという気がしたんですけど。そんなことは別にないですか?
三好 自覚したことはないですけど、そう言われるとそんな気もしてきます。
畑中 あの、三好さんの絵の中に出てくる僕がすごく好きなねキャラクター。妖怪とかねモノノ怪とか化け物とかみたいなやつ。カテゴリーされないような、三好愛的な存在っているじゃないですか。ああいうものってどうやったら、どこから出てきたのか。僕もはっきり言って三好さんのファンなんですけど、他でまったく見たことがない。僕、民俗学者っていう仕事をしていて、先月も『関西弁で読む遠野物語』についてのイベントをして、河童の話した時に、頭にお皿のせておかっぱ頭で、背中に甲羅を載せてるようなのが河童、みたいな気配とか感触とかあるじゃないですか。でも、僕はもっと不定形なものって思ってて、そういう僕の持ってる妖怪とかモノノ怪のイメージが三好さんの絵とすごいぴったりなんですね。心の闇でもないんだけど、名状しがたい感情? ざわざわとかうずうずとかあるじゃないですか。
三好 そうですね。
畑中 そういうのを絵にしてますよね。こういうのってなんかこう、出自とかってあるんですか?
三好 出自はわからないんですけど、私、親に育てられる時に、わりと親がドライだったっていうか。例えば、「人が死んだ後は無だから」みたいな。「お化けとかには絶対ならないから」みたいな感じで言われて育ってたから、「お化けを見た」みたいな話を聞いてもあんまぴんとこなくて。そういう人間とは地続きではないところで何か、異様な何かが現れるとか、そういうことをあんまり信じないで生きてきたんですけど、その割には、生きてく中で割り切れないことが多すぎるというか。なんか生きててモヤっとする、困ったりすることがあって。生きるのって大変だな、みたいな。そこを、妖怪とかお化けとかキャラみたいなものにはならない間のモヤモヤしたところを、擬人化するみたいな感じですかね。
畑中 なるほどね。それで、僕の関心領域と三好さんのイラストの共通項みたいなのが何かということをつらつらと考えてたんですけど。三好さんの絵の中の人、まあ人かな。だいたい困ってんだよね。だいたいがね、何かしら困ってるっていう。
三好 そうですね。あまりいいことない感じ。
畑中 ほんで、三好さん非常に人気があるし、僕も三好さんにすごい共感するのって、今みんな困ってるじゃないですか。ただ、困ってるんだかなんだかもわかんないとか、困ってる理由とかすごいはっきりしない。困ってることの解決のしようがないっていう。ほんでやっぱ困ってること、それは現実的に貧困とか差別とかっていう困りごともあるんだけど、大災害じゃないようなもの、頻繁に起こるような水浸しとかね。昔から人々、民衆とか庶民とか僕らにとっては困ったことの連続なんだよね。柳田國男の民俗学っていうのも貧困とかみたいなのを解決しようとした時に、「それを解決するためには妖怪のことを研究しなきゃ」みたいな、すごい裏を回って解決しようとする。それはね、一見妖怪を研究することと貧困って全然関係ないと思うだろうけど、日々の困ったこととかモヤモヤを妖怪のせいだ、みたいなことにして。その妖怪っていうのが決して頭に皿がしてるようなもんじゃないっていうのが僕の考えで、そのイメージと三好さんのイラストに出てくる困ってる存在みたいなものの見た目がすごくしっくりくるってことがありますね。

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大きいイベントの陰では人間たちの小さい翻弄があって、イベントが大きすぎるから、どんな人にも関連している(三好)

畑中 そもそも『五輪と万博』という本は、その当事者とか、スポーツに関心のある多くの人なんかは思い出に残って、励まされたりする人もいるかもしれないけど、実際にそれによって立ち退きになったり、予定変更になって立ち退いたのに、結局そこで行われないみたいなことってある。でも普通の人にとっての巨大イベントって、実はそういうことなんじゃないのかなってことはずっと思ってたんだよね。ほんで、今回のオリンピックも、ザハ・ハディドっていう人が死んじゃったでしょ。
三好 そうですね。
畑中 国立新競技場っていうのは、コンペでね、ザハ・ハディドっていう人のかなり斬新なぶっ飛んだ案でいったんは決まった。僕はなんか、決まっちゃったから競技は興味ないし、その時東京に住んでたから、せっかくやるなら僕、建築は基本的に好きだから、そういうのぐらい作っときゃ海外から面白がって見に来るし。それこそ開会式の時にザハ・ハディドの建物がさ、第一案、途中で案変わっちゃったけどさ、あんなん映ったらめちゃくちゃそれこそさ。
三好 かっこいいですよね。
畑中 それこそブレードランナーみたいな話じゃないですか。ドローンかなんかで新宿歌舞伎町からずっとあれして、あんなんなんか映りゃ、変な国だよなみたいなことが出来たのに、やれ、景観がどうしたこうしたみたいな話になって、結局変更になったっていうね。なんかその「五輪と万博」の周辺史みたいなことを掘り起こしたら変な本じゃないかなと思って書いたのが『五輪と万博』っていう本だったんですね。読んでいただけた?
三好 読みましたよ。
畑中 どうでした?
三好 私は万博の時も1960年のオリンピックの時も生きてはなかったんですけど、今もオリンピック翻弄されてるじゃないですか。なんか、あのロゴマークが最初に。
畑中 あったね。あれ、書くのも忘れちゃったよ。
三好 なんかでも、その、拝読してたら1960年の万博でもおんなじようなことがあったっていう。いつの時代もおんなじような翻弄があったんだって全体的に思って。太陽の塔を建てる時も、丹下健三と岡本太郎が取っ組み合いの喧嘩をしたっていうことも書かれてて、大きいイベントの陰では人間たちの小さい翻弄があって、イベントが大きすぎるから、どんな人にも関連してて。私、全然万博とか行ってないですけど、去年ちょうど太陽の塔の内部には入ったので。太陽の塔の手を広げた先がエスカレーターになってるんですよね。で、お祭り広場に出れるっていうのとか知ってめちゃくちゃびっくりして。
畑中 今公開の再公開では出れなくなってる。
三好 だから、そういう私なんかから見たら、太陽の塔は独立して大きな空間に建ってるものという印象があるんですけど、万博に行った畑中さんにとっては、「今、あの太陽の塔は孤独に感じられる」みたいな思いとかがあって、そういう大きなイベントの中でいろんな人の関わり方や思いが詰まってるのが書いてあってすごい面白かったです。
畑中 その太陽の塔って今回取材して、かなり違ってるわけ。今は全然動かないでしょ。あれ昔は動いたの。
三好 すごいですよね。
畑中 しかもあそこ入るとね、体に変な光が投影されるようななんかがあったりだとか、かなり当時と変わっちゃってるっていう。それが面白かったっていうのがあったんだけど、万博行った時って僕は子どもだから、僕がひねくれてるのかもしれないけど、結局、万博を体験したから僕科学者目指そうとか建築家目指そうって思った子どもってあんまりいないと思うんだよね。やっぱ庶民にとって記憶に残っているのは、子どもがここで過ごしたとか、すごい行列だったとか。今日「記憶のあいまいさ、経験のおぼつかなさ」と言ったのはあらゆる人には影響はあるんだけど、すごい小さなこと、それの束としての巨大イベントみたいなことをさ、なんか言いたかったっていう。全貌をね、なんかすべてをわかっている人はいないみたいな。それぞれと、自分と巨大イベントの関係性の中で生きてるというか。

すごい大事なこととかって、意外となんか、見るべきことを見てない、みたいなことの連続だっていう気がするよね(畑中)

畑中 僕ね、ちょっと『ざらざらをさわる』を送ってきていただいて本当に恐縮したんですけど。100冊でも買うつもりだったのに送ってきていただいて、ふせんがついてたんですよ。そこ読んだら僕の名前が出てくるんですね。
三好 そうです。お送りするとき、編集者さんにつけてもらったんです~。
畑中 これ、結構すごいっすよ。固有名ってのはね出てこないそんなに。星新一とね漫画家の浅野いにお、武田百合子とか。
三好 あー、出てますね。
畑中 その中で、「畑中章宏」って、すっげーじゃんってなって。むちゃくちゃ喜んじゃってですね。本当に。『21世紀の民俗学』っていう本にね、「景観認知症」っていう文章があって。僕、昔、隅田川寄りの日本橋中州というところに住んでいて、本当に何ヶ月か一回は更地ができちゃうわけで、本当に毎日毎日、都立中央図書館に行くのに通ってんのに更地の後に何が建ってたのか全然思い出せなくてっていう。最近もあったね、近所で。もう俺って本当に何も見てねえのとか、自分が結構なんかね、こんなね俺ってボーってして歩いてんのとか。
三好 そうなんですよ、思い入れがなかったのかなって思っちゃって。
畑中 それについて、あの、書いてくださって。僕の名前とそのことを。三好さんもってことを書いてくれて。
三好 元々すごい私も、商店街とかでなんかの建物がなくなっちゃうと、あ、ここ前に建ってたっけ? ってすぐなっちゃって。そういうのって名前がないのかなって思ってたら、その時ちょうど畑中さんの本を読んでて、畑中さんがそれに「景観認知症」って名前をつけてて、あ、畑中さんが名前をつけてらっしゃる! と思って。でも、私たちだけなんですかね、みんなある?
畑中 あるよね、なんとなく。それで『ざらざらをさわる』の中でね、一番実感があった話が、藝大にね大浦食堂って食堂がねあるんですよね。藝大ってね、二つ食堂があるんです。美術学部の方には大浦食堂っていう食堂があって、音楽学部はえっと。
三好 キャッスル。キャッスルは、がちょっとがっつりなんですよね。美味しいけど、揚げ物が多くて。
畑中 洋食がね、ランチでも揚げ物がね。
三好 そうなんですよ。
畑中 なんかねキャッスルは天井が高くって、ひろびろとしてる。
三好 ちょっと高級というか。ステーキとかあったり。音楽学部なんで。
畑中 美攻の方がどっちかっていうとやっぱ音楽でピアノやってる方とか、バイオリンやってる方とか品の良い人は多い?
三好 客層が全然違いますね。
畑中 それに比べると大浦食堂ってなんとなく食堂っぽい。昔は多分そうだったはずだと思うんだけど。一般の人は利用できるのかな?
三好 できますね。
畑中 で、そこの、なんだっけ?
三好 お茶が出る給湯器。
畑中 お茶が出る機械があって、水とお茶?
三好 水とお茶のボタンがあって。あとプラスチックのコップ。
畑中 何色?
三好 緑、薄緑みたいな色のコップで、すごい安っぽい。
畑中 あったかい、つめたいあるんだっけ?
三好 お茶はあったかいです。常に。
畑中 お茶ってあったかいのあったっけ?
三好 水はつめたくて、お茶はなぜかあったかいのしか出ないんです。なんか、お茶っぱがバサって落ちてくるときもあれば、うっす!! みたいな時もあって。タイミングかな。
畑中 今日、「記憶のあいまいさ、経験のおぼつかなさ」っていうタイトルつけたんだけど、三好さんは毎日通る道に何が建っていたかは覚えていないのに、その大浦食堂の給湯器とコップの質感をしっかり覚えている。なんか人の人生ってさ、すごい思い出に残ることと、あと、これすげえ嫌だなという、結構嫌な話って二つぐらいあるよね。『ざらざらをさわる』の中のゲロの話とかさ。
三好 ああ、ありました。
畑中 ゲロの話と、コバエのやつとか。生きててなんかこう、すごい劇的なあるシーンがある波乱万丈な人生を送ってる人と比べて、僕とか平々凡々と58年間生きてきたから、思い出すことってさ、すごい断片断片の積み重なりで、そういう中を生きてきたんじゃないかなっていう気がすごいする。すごい大事なこととかって、意外となんか、見るべきことを見てないとかみたいなことの連続だっていう気がするよね。


(2020年8月2日 本屋B&B)
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三好愛(みよし・あい)
1986年、東京都生まれ。イラストレーター。ことばから着想を得る不思議な世界観のイラストが人気を集め、『どもる体』伊藤亜紗(医学書院)、『某』川上弘美(幻冬舎)をはじめ数多くの本の装画や挿絵を担当するほか、クリープハイプのグッズデザインも手がけるなど、幅広く活動している。
畑中章宏(はたなか・あきひろ)
1962年、大阪府生まれ。民俗学者、作家。著書に『柳田国男と今和次郎』 (平凡社新書)、『災害と妖怪』 (亜紀書房)、『先祖と日本人』(日本評論社)、『蚕』(晶文社)、『天災と日本人』(ちくま新書)、『21世紀の民俗学』(KADOKAWA)、『死者の民主主義』(トランスビュー)、『関西弁で読む遠野物語』(訳と解説/エクスナレッジ)ほか多数。
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東京・神保町にある、文学・芸術を中心とした書籍と各種学校案内書を発行する出版社です。犀🦏のマークが目印です。
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