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第8回 木の価値を高めるための方法―その2

世にも珍しい林業エンタメ

 突然ですが、『WOODJOB! ~神去(かむさり)なあなあ日常~』という映画はご覧になりましたか? 本連載を読んでくださっている方は少なからず林業の世界に関心がおありだと思うので、もしかするとすでにご覧になっている方も多いかもしれません。本作は、林業を題材にした三浦しをんの小説『神去なあなあ日常』が原作の映画で、染谷将太、伊藤英明、長澤まさみ、柄本明など、日本を代表するようなそうそうたる俳優陣が出演。監督は、『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』などのヒット作を送り出してきた矢口史靖(しのぶ)監督がつとめています。物語のあらすじは以下の通りです。

 主人公は大学受験に失敗し彼女にもフラれてしまった18歳の青年、平野勇気(染谷将太)。ひょんなことから生まれ育った都会を離れ、三重県の山奥(神去村)で林業の研修を受けることに。いい加減な態度で研修に臨む勇気に、凶暴で野性的な先輩・飯田与喜(伊藤英明)の怒号。危険と隣り合わせの過酷な現場に耐えきれず、勇気は合宿所を逃げ出そうとするが、石井直紀(長澤まさみ)との出会いから村に留まることを決意する。休むまもなく始まる現場での刺激的な体験の日々。野趣あふれる田舎暮らし。魅力的な仲間たちと共に時間をすごす中で勇気は100年先を見据えた仕事「林業」の魅力に気づき、次第に成長していく――。

 私が本作を初めて観たのはまだ林業の仕事に就く前でした。この世界に関心はあったものの、危険と隣り合わせの過酷な仕事が果たして自分に務まるのか?と逡巡している時期でしたので、この映画を観たことによって自分が林業の世界で働く姿をより明確にイメージすることができました。もちろん、エンターテインメントとしてもすごく楽しませていただきました。

 林業を仕事にするようになったいま、改めて観返してみると当時とは違ったところに心が動いたり、林業関係者だからこそわかるようなあるあるネタを所々で見つけられるようになったりしていて、やはりこの映画は面白いと思いました。

 与喜が勇気の髪を鷲掴みにして「山なめとったら!命落とすぞ!!」と絶叫するシーンや、実地研修の配属先としてお世話になる中村林業の社長が山で淹れてくれたコーヒーを飲みながら勇気が満足気に微笑むシーンなどはグッとくるものがあり、私が特に好きなシーンです。

 林業を題材にした映画なんてこれまであまりなかったでしょうし、あったとしても斜陽産業と呼ばれて久しいこの世界にわざわざスポットライトを当て、ここまでの国民的エンターテインメントに昇華した作品は絶対になかったはずです。まだ観ていない方も是非一度、ご覧になってみることをおすすめします。

神去村風景

(神去村の風景)


映画のロケ地を訪れる

 なんで私がここで『WOODJOB!』の話をしたかと言いますと、実は昨年、この映画のロケ地に行ってきたのです。そのときのお話をしたかったわけです。

 この映画の主なロケ地となったのは三重県津市美杉町という山村のまちです。私はそこで林業を営んでいる三浦妃己郎(きみお)さんにお会いするために同町を訪れました。三浦さんは、お爺さまが創業された三浦林商の代表として林業の6次産業化に取り組む林業家です。つまり、丸太を丸太のまま売るだけではなく、加工してお客さんに届けるまでを一手に引き受けていて、まさに私がやりたい林業のカタチを体現されている方です。はっきり言って私は三浦さんのような林業家になりたいと思っています。

 三浦さんとは、もともと私が住む神奈川県山北町で開かれた林業の勉強会に講師で来ていただいたことがきっかけで知り合いになり、その後はフェイスブックのお友達になり、三浦さんが東京方面に商品を配達する帰りに山北町に立ち寄ってくださったときにお会いするような関係でした。

 昨年ついに三浦さんの仕事場を見学させていただく貴重な機会をいただき、ありがたいことに映画『WOODJOB!』のロケ地案内までしてくださることになりました。ちなみに三浦さんは、映画の撮影に際して現地の調整役として相当なご尽力をされ、エンドロールにもバッチリお名前が記載されています。三浦さんから撮影時の様々な裏話を伺いながら、映画に登場したスポットをいくつもめぐりました。

 直紀の家や中村林業の土場、撮影に使ったトラックや小道具までが残されていて、映画の一ファンとしては興奮せずにはいられませんでした。

直紀の家

(直紀の家の前)

直紀の家2

(直紀の家)

中村林業土場

(中村林業の土場)

小道具

(小道具)


〇〇○○さんが伐った木

 三浦さんが木材を加工している工房に立ち寄ったときのこと、三浦さんが不意に丸鋸で木の端材をザクザクと切りはじめました。そしてカード状になったその木の一部を私に差し出してくれました。聞くに、これは伊藤英明が「本番」で伐った木なのだそうです。三浦さんは当たり前のようにそうおっしゃいましたが、私はびっくりして、もう動揺しまくりです。

 同時に、映画の中で伊藤英明演じる飯田与喜が真剣な眼差しで樹齢100年は超えていそうなスギの大木を伐り倒しているあのシーンがありありと想起されました。私は手にしたその木をまじまじと観察しながら年輪の間隔がきれいに整っていることや茶色っぽい芯材部のしっかりとした存在感に、「いい木だな」と思いました。よかったら差し上げますと三浦さんがおっしゃるので、ありがたく頂戴することにしました(一瞬、恐れ多くて躊躇してしまいましたが)。

伊藤英明が本番で伐った木

(伊藤英明が本番で伐った木)

 続いて三浦さんが出してきたのはスギの木を斜めの輪切りにした状態のものです。こちらは伊藤英明が「練習」で伐った木なのだそう。練習だろうが本番だろうが、あの有名な俳優が伐った木となればそれはもう興味深々です。普通、木は乾燥する過程で収縮するので割れが入ります。しかしこの木をよく見ると一切どこにも割れが入っていないのでとても不思議に思いました。何か秘訣があるのでしょうが、私は神秘的な何かさえ感じました。これも、よかったら差し上げるとおっしゃるので図々しく頂戴することにしました。

伊藤英明が練習で伐った木

(伊藤英明が練習で伐った木)

 その後も三浦さんに美杉町の色々な場所を丁寧にご案内いただいたのですが、ここには書ききれなくなってしまいますので、いったんこのあたりまでにしたいと思います。本当に貴重な経験をさせていただき、感謝の思いでいっぱいです。

(三浦さんの取り組みについては木暮人倶楽部のインタビュー記事が詳しいです。https://www.kogurebito.jp/archives/1168


木の価値を高める方法

 山北町に帰ったあと旅先での思い出にひたりながら、いただいた木をぼんやりと眺めていました。これらは、木そのものとしての質も上等でありながら、さらに特別な価値を持っていることに気づきました。なんと言ってもそれは、俳優の伊藤英明が映画『WOODJOB!』の中で伐った「あの木」なのです。私がそれをいただいたときに感じた喜びは確かなものでした。特別な感じがしてすごく嬉しかったです。宝物にしようと思いました。失礼かもしれませんが、もし伊藤英明が伐った木と知らされていなかったら、感じ方は違ったと思います(私も普段から木を扱う仕事をしていますので)。三浦さんもそのことは理解された上で私にくださったはずです。

 このことにはモノの価値を高めるためのヒントが隠されていると思います。つまり、「誰」が「どのように」手がけたモノかによって価値が変わるということです。私は、この経験を是非とも自分のやっていることに応用できないかと考えました。

 私がこれからどんなにあがいても伊藤英明に匹敵するような俳優になることはできません。また、『WOODJOB!』のような国民的映画に出演することもできません(少なくとも、私に俳優をめざそうという気持ちはありません)。

 ですから、「伊藤英明が、映画『WOODJOB!』の中で伐った木には価値がある」という概念をもっと抽象的に解釈してみることにしました。すると、「有名な人が、物語の中で作り出したモノには価値がある」となります。こう考えると、なんか求めている答えが近づいて来た感じがします。

 今の時代はインターネットがあって、個人が簡単に発信できる時代になりました。私は決して伊藤英明になれませんが、努力次第では林業家としての知名度を高めることは可能です。また、SNSやブログ(この連載「山を買う」もその一つです)を通して、私自身の考え(物語)を発表することも可能です。それをやっていけばいいということです。

 自分の商品(木の製品)を作りながら、発信をすることで林業家としての知名度を高め、媒体も育てていく――。発信は正直言うと面倒な作業なので、木の価値を高めるための手段として実践している林業家は少ないと思います。でもそれで、自分が手がけたモノの価値を高めることができるなら、私はやってみたいと思います。500円で売っている商品が550円で売れるようになるかもしれない、そんな可能性が少しでもあるのなら、目指してみるべきだと思います

 以前、木の価値を高めるためには加工が大事だというお話をしました。今回は、自分の知名度を高めて、考え(物語)を発表することが大事だというお話でした。

丸太の解説をする三浦さん

(丸太の解説をする三浦妃己郎さん)

三浦さんの商品のストック

(三浦さんの商品のストック)


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イシタカ
28歳のきこり/山主。神奈川県の水源地域、山北町で取得したボサ山を自力で整備しながら副業自立型の小さな林業を実践・発信していきます。林業、気安くオススメはしませんが格好いいところ見せたいとは思います。twitter ID:@ishidatakahisa



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東京・神保町にある、文学・芸術を中心とした書籍と各種学校案内書を発行する出版社です。犀🦏のマークが目印です。