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第6回 薪の無人販売はじめました。

薪について知っていたこと

 丸太を丸太のまま売っていたのでは、超小規模でやらざるを得ないイシタカ山の林業は絶対にうまくいきません。伐った木の体積あたり価値を高めるために加工を施すことがいかに重要かを前回記事(「1本の木の価値を高める方法」)では考えました。いくつかの電動工具を買い揃え、それを使っても迷惑にならない工房を構えることで、木工に精通していない私でもキレイな板を生産することができるまでになりました。とはいえ技術的にはまだ、四角いまな板がやっと作れる程度です。これから通販を始めたり、売り先を広めたりするにあったって、ラインナップも増やしていきたいですし、商品のクオリティも高めていきたいです。イシタカ山ではそれをやっていく必要があります。

 ところで、自分の山で伐った木を販売することを考えるとき、忘れてはいけないもっと身近な加工品がありました。それは、なんといっても「薪」でしょう。説明するまでもないと思いますが、薪とは木を短く切って、縦に割って、乾燥させたもののことです。

 キャンプ場やその利用者、薪ストーブユーザー等が求めていて、最近では結構な需要があるようです。「燃やすこと」が主な使い道になるのでよく乾いているものが良い薪とされていて、逆に伐ってきたばかりで水分をたっぷり含んでいるものは全然燃えないので嫌われます。上等な薪とみなされるには最低でも半年から1年は乾かしたいので、作るには結構な時間と手間がかかります。

IMG_0397薪は需要がある

(↑ 薪には需要がある)

 
 それでも、時間と手間がかかる分、丸太よりも高く売ることができますし、やはりそれなりに需要もあるようなので、木工に使わない木を回すなどして上手くやれば、仕事になる可能性があります。とりあえずチェンソーと斧があれば始められるので、私はいっちょ薪づくりにチャレンジしてみることにしました。お金になるとかならないとかを抜きにして考えても、薪づくりって純粋に楽しそうです。ワクワクしてきます。ただそれだけでもチャレンジするに値することのような気がしました。


薪づくりに挑戦!

 ただ、体積あたりの価値で考えたとき、精巧な木工作品に比べたら薪は少々分が悪いです。伐った木の価値を最大化することを目的として薪づくりにチャレンジするわけですから、すごく質の良い木を薪にしてしまうのはもったいないという頭も持っていなければなりません。イシタカ山では現在、どうしようもなくボサボサになってるエリアをきりひらく作業をしています。そこには枯れかけて支障木になっている木や、虫に食われている木が結構あるので主にそういった木を活用して薪づくりをすることにしました。

 まず、チェンソーで木を伐採します。この作業はなんといっても壮快で、林業の仕事の中でも一番の醍醐味です。しかし未経験の方が想像するよりもはるかに難しく、危険な作業でもあるので、万全な安全対策と細心の注意が必要です。

IMG_1802木を伐り倒す

(↑ 木を伐り倒す)

 
 私は本業でも日常の業務として行っていて、日々技術を磨いていますが、上手くいかないこともほんとうに多い作業です。伐採に関する技術の探求には終わりがありません。そのような意識で臨まないと、ケガをするだけでは済まないような不幸な結果を招いてしまいます。

 緊張しながらも上手く伐り倒した木は薪のサイズの長さにブツ切りにして軽トラックに積み込み、作業場まで運びます。作業効率を考えると一度にできるだけたくさんの量を運びたいところですが、トラックには積載量が定められていますので、積み過ぎないように注意が必要です。

IMG_3282トラックで運ぶ

(↑ 木をブツ切りにする)

 
 作業場にある程度集まったら、今度は斧を振るって切った木を縦に割っていく作業です。薪は用途によって求められている樹種・太さ・長さがいろいろあるようなのですが、今はそこまでこまごまと気を遣っていられないのでとにかく適当にどんどん割っていくことにします。腕、膝、腰を上手く連動させて、斧を上から下に真っ直ぐ振り下ろします。コツを掴めば気持ちいいぐらいにパカパカと割れていきます。これも重たい刃物を振り下ろすわけですから、間違っても自分の足を割らないように細心の注意が必要です。なんだか林業の仕事って注意することばっかりです。しかし、気を抜いたときが一番危ないです。林業は緊張の連続です。

 割り終わったら次は乾燥の工程です。日当たりと風通しが良い場所を選んで、崩れないように積み上げていき、上面をトタンやシートで覆って雨が当たらないようにすれば完璧です。この状態で1年も乾燥させれば、ホクホクの薪に仕上がります。

IMG_9513薪を積む

(↑ 薪を積む)

 
 そして意外に手間なのが仕上がった薪を束にする作業です。針金でできた既製品の薪輪は1本20円ぐらいしますので、原価を抑えるためには使えません。いろいろ考えてみたのですが、麻ひもで薪輪を自作すれば1本1円以下でできるのでやってみることにしました。麻ひもを輪の状態にして、そこに薪を通して束にします。少々強度が心配ですが、用をなしているのでOKとします。それに麻ひもであれば薪と一緒に燃やせるので、ゴミが出なくてなお良しです。これでいよいよ薪の完成なんですけど、ここまでで1年くらいの歳月がかかっています。

IMG_1530束にする

(↑ 束にする)


無人販売をやってみた

 さて、出来上がった薪を売りに出しましょう! ひとつの方法は、キャンプ場などの事業者に向けて営業をして配達する方法があると思います。しかし、相手の事業者も利益を出す必要がありますから、できるだけ安く仕入れたいことは私も理解しています。私の作る薪が将来的に大量かつ安定的に供給できるようになれば、そういった事業者の需要にも応えうるのかもしれませんが、休日にチョロチョロやっている程度の規模では全くどうにもなりません。何より、これだけの時間と手間をかけて作った薪を安く売るべきではないという思いもありました。

 もうひとつの方法は通販です。通販であれば直接ユーザーに対して販売するので、自由な値付けが可能です。しかし、薪は物理的に大きいし重たいし、できるだけ1束の値段を下げたとしても送料が結構かかっちゃいます。それに面倒な発送の手続きも一つの取引ごとに発生してくるので、この手間も馬鹿になりません。いろいろ言い訳をしてわがままの言いたい放題ですが、私はもっとシンプルにやりたいわけです。ホントに恐縮です。

 それで思いついたのが無人販売という方法でした。無人販売であれば、自由な値付けができるうえに販売にかかる手間もグッと減ります。売り物である薪や代金が盗難にあうリスクも少なからずありますが、もし盗難に遭うようなことがあっても、「恵まれない人に寄付した」と考えれば心穏やかにいられるだろうと思いましたし、無駄な心配をしたり、盗難に遭わないための対策を考えたりするのは実際にそういう事が起きてからにしようと決めました。うまくいくかどうか分からないことを「試しにやってみる」の精神はマジで大事だと思っています。

 それで、無人販売所をどこにつくるかが問題ですが、ちょうど私の実家の駐車場が大きめの道路に面していて、そこそこ人の往来もあって好都合な立地にありました。駐車場の雑草を管理をするという約束で、その一角に薪の無人販売所を作らせてもらいました。

 商品である薪、自作の看板、代金を入れるためのお皿を準備し、道路に面した位置に設置したところで、イシタカ山の薪の無人販売所は人知れずひっそりとオープンしました。料金は1束税込み500円。だいたい世間並みの価格であるのと、買いに来てくれた人が計算と支払いをしやすいようキリがいい数字にしました。

IMG_2958無人販売所

(↑ 無人販売所)

 
 オープンしてからしばらくは全然音沙汰がなく、意に反して薪が売れない日々が続きました。看板の向きや薪の積み方をあれこれいじっているうち、2週間くらい経ったところで3束の薪が無くなっていることに気付きました! 恐る恐るお皿の中を覗いてみると・・・千円札が1枚と500円玉が1枚!鎮座しておられました。初めての売上げがあったのです。

 その時の気持ちは一生忘れるはずもないと思いますが、自分が手間をかけて作った物を求めてくれる人がいることの喜びったらないです。特に私は、無人販売所をスタートさせるまでに、苦労の末に「山を買う」というこれ以上ない手間をかけるところから始めていますので、それはそれはほんとうに嬉しかったです。薪を買って頂いた人の顔も名前も分かりませんが、マジで感謝しかないなと思いました。

IMG_2960初売り上げ

(↑ 初めての売り上げ)

 
 爆発的に売れ続けるということはありませんでしたが、その後もちょくちょく売れるようになって(月に10~20束)おかげさまでオープンから1年を迎えることができました。その成果を振り返ってみると、売れた薪の束数は約150束でした。私としては、簡素で味気のない売り場でやってきた割にこの数字は上出来だと思っています。ほんとうにありがたいことです。また、今後のやり方次第ではもっと売上げを伸ばせそうな手応えを掴むこともできましたので引き続き色々と工夫を凝らして頑張っていきます。

 そして、私がそれ以上に驚いたのは代金の回収率です。盗難のリスクがあることを承知で始めたわけですが、結果的に回収率は101%となりました。ちょっと意味が分からないかもしれませんが現実にそういうことが起こってしまっているのです。基本的に薪を買ってくれた人は、代金をきちんとお皿の中に投入してくれています。一度だけ代金が不足していることがありましたが、別の人が代金を余分に入れてくれている場合もあって、なんとその額が不足分を上回ってしまったのです。これはなんかもう、「ありがたい」という言葉の次元を超えて、お客様に対する崇拝の思想さえ芽生えてしまいそうなレベルの話です。驚きでぶっ飛んでしまいます。


これからの薪づくり

 私にとって薪づくりと無人販売に挑戦して得られたことはほんとうに大きかったです。物を作って売る、という私が山を買おうと思ったときから目指していた林業の形を実現できたこと。そしてその喜びの大きさに気づいたこと。クセになってしまいます。「たったの150束ぐらいで何を言っているんだ」という声も聞こえてきそうですが、そんなことは関係ありません。私が飛び上がるほど嬉しかったという事実は何物にも変えがたいものです。

 薪は、使えば消えてなくなってしまうので需要が継続するという特徴があります。だから、薪づくりは上手にやれば人を雇えるぐらいのちゃんとした仕事になる可能性があります。そのためにはもっとたくさんの量を効率よく作れるようにならなくてはなりません。私もひとりの山主として、そんなところに投資をしようと考え、エンジン式の薪割り機を買いました。結果的には山よりも高い買い物になりましたが、生産効率が格段に上がった以上に私のモチベーションも爆上がりしましたので、最高の買い物だったと思います。

IMG_3750薪割り機

(↑ 薪割り機)

 
 私が取り組んでいる小さな林業も、だんだんとできることが増えて来ました。これまで選ぶことができずに切り捨ててきた販売方法にもこれからは積極的にチャレンジしていきたいと思います。 

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イシタカ
28歳のきこり/山主。神奈川県の水源地域、山北町で取得したボサ山を自力で整備しながら副業自立型の小さな林業を実践・発信していきます。林業、気安くオススメはしませんが格好いいところ見せたいとは思います。twitter ID:@ishidatakahisa
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東京・神保町にある、文学・芸術を中心とした書籍と各種学校案内書を発行する出版社です。犀🦏のマークが目印です。

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