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『学問の自由が危ない』のYouTube公開にあわせて


・菅政権発足直後になされた、日本学術会議新規会員6名の任命拒否に端を発する、学術会議問題についての決定版、佐藤学・上野千鶴子・内田樹編による『学問の自由が危ない』がいよいよ発売になります。
・その発売にあわせて、小社のYouTubeでPR動画を公開しましたので、ご高覧いただけるとさいわいです。https://www.youtube.com/watch?v=hVFIuJoYwFY&feature=youtu.be
・ただ、12分と長い動画ですので、お忙しい方々にはかったるく感じられると思います。ですので、ここでその内容をかいつまんでテキストでお知らせしたいと思います。


・本書の刊行にあわせて、編者のひとり、内田樹先生に「「職人」としての学者は、この件については一歩も譲らない」という原稿をご寄稿いただきました。
・そこで言われているのは、学者たちがなぜこの問題に対しては徹底的に抗戦するのか、その理由についてです。たいへん優れた論考ですので、まずはお読みいただければと思います。https://shobunsha.info/n/nd8e533e7b33b

・簡単にその内容をご紹介しますと、大学は、この20年間、政権とその息のかかった文部官僚に揺ぶられてきました。成果主義の導入あり、成果を数値化するために膨大な事務作業を課せられたり、予算削減で脅し、研究したければ自分で金をとってこい、成果が出なければ非常勤のままだ、教授会の権限はなくなり大学の自治権は有名無実となった、文部大臣が一声かければ大学人はひれふす、そんな構図が続いていたというわけです。

・今回の任命拒否も、菅政権は政権発足の景気付けニュースとして、政府に批判的な意見を持つ学者たちに一発かましてやるか、くらいの気持ちだったと思います。「お前ら、わかってんだろな。政権に楯つくとこんな目にあうんだぜ」みたいな感じで。
・ところが思いもよらず、猛反撃をくらった。これはなぜか。学者というのは、大学という組織のなかの一員である以前に、自分の仕事に誇りをもつ職人でもあるから、というのがその理由だということです。

・職人の世界は、腕次第。お互いの仕事の質を見て、評価しあう一種のギルド的な共同体。そこで問われるのは、あくまで仕事の質の面での序列であり、組織上のヒエラルキーは関係ない。
・だから、大学の中の一員としての教員は、文部省の命令に諾々と従っても、職人としての学者はそんなものは屁でもない。それよりも研究を高いクオリティで極めることのほうが上だと考えている。予算を削るだの、潰してやるだのの恫喝にも屈しない(上野千鶴子先生は今回の本のなかで、「学者は政権には仕えない。学者が仕えるのは真理についてだけだ」とおっしゃっています)。
・そのことを政権は見逃していたのではないか。学者の本分たる「真理の探求」という領域に、力関係を確認するためだけのマウンティングを持ち込んだために、猛反撃をくらったというのが内田先生のお話でした。

・以下、それに付随して、担当編集者が思ったことを述べますと、我々出版人も、一種の職人であるということです。出版界で働く我々は、それぞれは多くの場合、営利企業の社員であるわけですが、一人一人をみれば、職人であるとも言える。たとえば編集者であれば、どんな本を作ったか、作った本がどれだけ質の高いものだったか、それがどれだけ多くの人に届くものだったか、それだけで評価されるわけで、そこには年が若いとかベテランとか、会社の役職がどうとかは関係ない。あくまで仕事の質で評価される世界です。会社員としての立ち位置とはまた違う価値観の世界に生きている。

・出版社もマスコミと同様、政権から疎まれたり睨まれたりしすい存在です。それゆえ、たいして意味があるわけでもない価格の総額表示義務などで、「お前らなんかいつでも潰せるんだぜ」という圧を時々受けたりして、実際それで右往左往させられているわけです。
・でも、それは会社としてのこと、会社員としてのことであって、職人としての出版人は、自分の仕事に誇りをもっている限り、それをないがしろにするような圧力には屈しない、あるいは屈してはならない。そういう自負を持っていなければならない。出版人として守るべき一線は守らなければならない。
・逆に、そうした矜持を持つためには、自分の仕事に対して誠実に向かい合っていないといけない。そうしたことを、この本の編集を通じて、あらためて確認させてもらった思いがあります。

・これは私が出版界で禄を食む人間だから、出版人のこととして考えたわけですが、緊急事態宣言下で営業自粛を求められているにもかかわらず、政府のやり方に納得がいかないと、給付金など受け取らずに営業を続ける焼き鳥屋のオヤジさん(以前テレビに出ておられたのを見ました)にも、通じるものがあると思います。
・こんなふうに、学術の世界から遠いところにいるように思える人にとっても、案外身近な問題であるということで、すこしでも多くの読者にこの本を届くことを祈っています。(安藤)

学問の自由obi