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一度は「〇〇〇」に憧れる │ 事務員G×じろまるいずみ 『餃子のおんがえし』刊行記念対談②

前回にひきつづき、音楽家の事務員Gさんと料理作家のじろまるいずみさんの対談をお送りいたします。(第1回はこちら

豆腐を波型に切る

じろまる 今日、事務員さんにお会いするにあたって聞きたいことがあって、漫画を持ってきたんです。『いつもポケットにショパン』という漫画のなかで、ピアノの先生が「キャベツの千切りを思い出して鍵盤を叩きなさい」みたいなことを言うんですよ。これを読んで、ピアノ弾きっていうのは生活の音やリズムを鍵盤に写し取ったりすることはあるのかなってずっと思ってて。
事務員G そうですね……僕に関しては、それは、あんまりないと思うなあ(笑)。ただ、料理を作っているときの「こうしたらいいかな?」っていう感覚はピアノ弾いているときに似てますね。音・音楽つまり聴けるものとしてできあがるか、料理つまり食べるものとしてできあがるかの違いはあるけど。
ぼくは料理を始めたらやってるうちに楽しくなってきて、どんどんいろんなものを集めるようになったんですよ。
じろまる 道具を?
事務員G そう、絶対に使わないようなものとか。「豆腐を波型に切る包丁」とか「銀杏を炒る網」とか。
じろまる わかります(笑)。「豆腐を波型に切る包丁」、持ってる。


事務員G 音楽やっていると、ベーシストでもギタリストでもそうなんですけど、「これがあったら」……って思うとその都度、新しい機材が欲しくなっちゃうんですよね。
じろまる エフェクターコレクターとか、いますもんね。
事務員G そうそう、あれと一緒。レシピ本を見て、「これ、自分の家にない」となると悔しくて。だからスパイス関連は全部持っていて、自信満々に使ってたんですけど、ここ2年くらいかな……「あんまりこういうのいらないかな」って思い始めて。結局人にふるまっておいしいねって言ってもらえるものって、シンプルなものだったりするんですよね。与えられてるものでどうやるか、っていうのを考えたときに、そこも音楽と似てるかもしれないって思いました。
じろまる なるほどねえ。
事務員G フルオーケストラがすごくよくて、スリーピースのジャズバンドが良くないのかって言われたらそんなことないじゃないですか。最低限のものでもおいしく、なるんですよね。
じろまる そうですね、むしろ塩を攻めた単純な焼き物だけのほうがおいしかったり、喜ばれたり。
事務員G そうなんですよ。変にすごい工夫を凝らして何時間もかけて作ったものより、肉を挽いて焼いたやつとか、うまい!って言ってくれるから、「なんだもう五香粉(ウーシャンフェン)いらないじゃん」って(笑)。
じろまる 使っても気が付かれないことも多いし(笑)。
事務員G じろまるさんの本を拝見していても、単純なものでもすごくおいしそうだなあって思って。

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🦏『餃子のおんがえし』じろまるいずみ著、三木俊一(文京図案室)・装丁、佐々木一澄・装画、林さやか(編集室屋上)・編集

一度は「アカ」に憧れる

じろまる でも道具の話でいうと、今回の本にも入れた「料理は出会いでできている」というエッセイにも書いたんだけど、圧力鍋を買えば肉を煮込みたくなるし、フードプロセッサーを買うと粉砕してドライカレーを作りたくなる、とか。
事務員G ああ、ありますよね。
じろまる 用もないのに「ばらん」をいっぱい買ってみたりとか。
事務員G 「ばらん」ね! あと、「チーズ削り器」買いますよね。
じろまる もちろん、もちろん。パスタマシンとかね。
事務員G パスタマシンも買いましたね。
じろまる お店のときの話だけど、鍬焼きのコテってわかります?
事務員G くわ……?
じろまる 関西に鍬焼きっていう調理法があって、鉄板の上に素材を置いたら大きなコテでおさえつけて焼くんだけど、そのコテを買ったんです。でも、東京のマンションに持ってきたら全然使うところがなくて、押入れのどこかで長らく眠ってらっしゃる。
事務員G これは買ったけど使わなかったってものありますか?
じろまる 誰もが一度は憧れる、そば打ちセットとか。
事務員G ああ、そば打ちセットね。
じろまる でも使わなくなってその後使ったこともある。三重県に住んでるころに買って1回しか使わなかったんですけど、離婚して名古屋に持ってきて。お店をやることになったので使えるじゃん、となって、お店やって1年目ぐらいのときにそばを出してみたことあるんですけど。
事務員G おお、出したんですね。
じろまる でもまあ、すぐ飽きますね。「蕎麦屋じゃないんだし」みたいな。
事務員G 鍋とかは結構持ってました?
じろまる いや、わたしはむしろ少ない鍋でやることに命を賭けてました。「私はこんな鍋しか持ってないのにこんなに多彩な料理を作れるのよ」っていう(笑)。謎のプライドです。ちなみにだしまきを作るときも、ダイエーの380円で買ったやつをずっと使ってるんです。
事務員G へえ~! 大きさは普通ですか?
じろまる 普通のです。380円っぽい感じの大きさ。
事務員G 「弘法筆を選ばず」状態を見せつけてるわけですね。
じろまる そう。銅のものを買う必要ないんだよ、って。一度は"銅(あか)"に憧れるっていうのもあるんですけどね。

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🦏「形から入って」買ったものコレクション。パスタマシンから時計回りに、エスカルゴ専用トング、貝剥き、点心専用麺棒、カクテルメジャー、クイジナート(撮影:じろまるさん)

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🦏だしまきを焼くのはダイエーで買った安い卵焼き器で(撮影:じろまるさん)


じろまる だしまきはお店をやっていたときの名物料理のひとつだったんです。それは、大阪で好きな店があって、そこは「車海老の踊り」が名物なんですよ。
事務員G 車海老の……踊り?
じろまる そう、「踊り食い」。注文してから目の前で生きた車海老の殻を剥いて、1尾160円くらい。すごいと思って、ほかのお客さんがひけてから「実は私は名古屋で店をやってて……」と話をするようになったら「同業者だからいうけど、これははっきりいって釣り餌なんです」と。実際、1尾160円ぐらいで仕入れてくるらしいので、プラマイゼロ、ほかのことを考えたらマイナスなんだけど、これでみんながお店に来てくれる。
そういうのがいいなと思って、だしまきは400円で始めたんです。のちに490円まで上げたんですけど、結構時間かかるしそんなに儲からないメニューだし、「これが800円で出せたらいいな」と思ってたんですけど。
事務員G ……だしまき、気になる(笑)。普通のだしまきなんですか?
じろまる だしがうんと入ってるだしまき。
事務員G ジュワジュワ系?
じろまる というより、「ふわふわ」ですね、明石焼きとかみたいな。
事務員G 形を保つのが難しいんじゃないですか。
じろまる そうです、だからどうしてもなまこ型になっちゃう。今回の本にも「だしまきのレシピ」というエッセイを書き下ろしました。お店は、あれでずっと持ってたようなものなんです。

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🦏じろまる謹製だしまき。だしが多すぎてどうしてもなまこ型になってしまう(撮影:じろまるさん)

次は誰の「おんがえし」?

事務員G 今回、本になるって決まったときはどうでした?
じろまる 本になるって決まったときよりも、ゲラなど、フォント(文字)が決まってレイアウトがきちんとして出てくるのが「原稿が成長してる」って感じで面白かったですね。パソコンに原稿状態であるときは、それが本になるといってもそんなにすごい実感はなかったんです。文字組がデザインされて、ゲラになって、表紙ができて、帯ができたときにはついに社交界デビューって思いました。
事務員G 社交界デビュー(笑)。僕はゲラを送ってもらってて、文章で読んでても、こうしてお話していても思ったんですけど、じろまるさんのワードセンスがすごい。
じろまる えーっ。それは「料理」という得意な分野だからだと思いますよ。
事務員G これをなんて説明したら読み手に伝わるかな、って思う単語選びの瞬間あるじゃないですか。そこで何を選ぶかが面白いんですよね。
じろまる ありがとうございます(笑)。こうして本になって、明朝体になるとすごい違うなとも思った。
事務員G 『餃子のおんがえし』というタイトルにしたのには理由があるんですか?
じろまる 本に入っている一編なんですけど、それを担当さんが面白いと思ってくれたことと、ワークショップの1回目も餃子だったし、最初の結婚も餃子が決めたようなもんだし……タイトルにしたらすごくはまったものが何かありました。そこからスルスル決まったのも、それもこれも餃子のおかげ。
事務員G うーん、餃子食べたくなってきました(笑)。今後も、もっと書いていかれるんですか?
じろまる そうですね、野望としては「おんがえし」シリーズを作りたい。東海林さだおの「まるかじり」シリーズみたいな(笑)。
(構成・林さやか)

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事務員G(じむいんじー)
インターネット上での活動から音楽活動を開始し、現在多方面で活躍する演奏者。2008 年よりイベントを企画、「unplugged afternoon」「虹色オーケストラ」「Stars on Planet」など実施。2012年公開のVOCALOID™楽曲214曲をつなげて弾いた映像が、ニコニコ動画「動画アワード」「演奏してみた」カテゴリでMVD受賞。2014年9月アルバム『N43』、2017年3月アルバム『G'sG60 ~スタジオジブリピアノメドレー60min.~』をリリース。近年では他アーティストの各種コンサートにおけるオーケストラ・オーガナイザーとして作曲や編曲にも携わる。
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じろまるいずみ
長崎生まれ、房総育ち。現在は東京在住。
幼少の頃から筋金入りの食いしん坊。名古屋・新栄で居酒屋「JIROMAL」を経営(現在は閉店)。店の評判からレシピを含んだエッセイを書くようになる。なぜか食にまつわるエピソードに事欠かない。現在は料理のワークショップを定期的に開催するほか、料理作家として執筆活動も行っている。
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東京・神保町にある、文学・芸術を中心とした書籍と各種学校案内書を発行する出版社です。犀🦏のマークが目印です。

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