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客か?主人か? │ 事務員G×じろまるいずみ 『餃子のおんがえし』刊行記念対談①


ピアノ演奏者、アレンジャー、譜面製作者など多方面で活躍する事務員Gさん。料理作家で、初めてのエッセイ集(『餃子のおんがえし』)が発売になったばかりのじろまるいずみさん。お互いの文章のファンで、Twitterやインスタグラムも相互にフォローし合うおふたりが、晶文社に遊びに来て、「音楽と料理との共通点」や「買って失敗した料理道具のこと」などをお話してくれました。その模様を2回に分けて公開いたします。(第2回はこちら

「客」らしい「客」になりたい

事務員G ぼくがじろまるさんの文章で最初に見たのは「みるみる煮える寿司」。今回の本にも収録されているんですよね。これは最後のオチが面白くて。
じろまる このオチになっている話、聞いたときは「まじかよ……」って思いましたね。私がお店をやっていたころの話で、出てくるお寿司屋さんも名古屋のお店なんですけど。
事務員G 寿司屋についてはぼくもいろいろありまして。
じろまる 一家言ありますか。お寿司が好きなんですか?
事務員G もちろんそれもあるんですけど、「寿司屋に馴染んでる自分」を見るのが好きなんです。
じろまる ん!? どういうことですか?
事務員G 普通の町のお寿司屋さんってありますよね。タバコの空き箱で作った球体が置いてあるような……。
じろまる ふむふむ。
事務員G そういうお店にひとつ焦点を合わせて、「絶対、ここで客らしい客になってやる」と思うんですよ。そのために何をどうしたらよいのかっていうのを店ごとに考えるという一人遊びなんです。そのうち公式もできてきて(笑)。例えばまず最初は必ず瓶ビールを頼む、とか。
じろまる 普通の注文っぽいですが、それはなぜ? 何か考えもありそう。
事務員G それが一番手がかからないからです。同じビールでも「生」を注文すると、できる人とできない人がいるし、たとえば新人であまり勝手がわかっていないアルバイトの子がいても「瓶ビール」だったら、彼女が誰かに何かを聞いたりしなくても仕事になるじゃないですか。彼女が自発的に働ける。でも、大将とか女将さんにいきなり「すいません、ハイボールのレモン抜き」って言っても……
じろまる ああ、ダメダメ。そういうことか~。
事務員G ね、そうなるから、最初はあんまり飲みたくなくても「瓶ビール」っていう。そうすると「よかった、この人はバイトにも別け隔てなく仕事をさせてくれる」と思ってくれるかなと。実際はどうかわかりませんよ(笑)。でもゲームとしての公式なんです(笑)。それで誰も嫌な思いをしないですし。

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🦏「みるみる煮える寿司」にも登場する千葉の名店「大徳家」のお寿司 (撮影:じろまるさん)


事務員G ほかにも細かいことはいろいろあるんですが、とにかく目標はなるべくお金をおとすこと。
じろまる 週に何回も通うというわけではないんですよね。
事務員G 違いますね。行ったときに「あいつ……来た!」となるようなタイミングで(笑)。
じろまる あはは(笑)。あ、それってパスタのときとパターンが似ていますね。
事務員G 読んでくださってるんですね。あのイタリアンでの話は寿司屋の派生系だったんですけど、すごくたくさんの方に読んでいただきましたね。

事務員G なんでそんなことばっかり考えてるのかっていうと、ぼくはずっと飲食店で働いていたので「こういうお客さんはやだな」っていうのがもともとあったんですよね。店側から見られた時、立派に「客!」って思われる感じの「客」になってみたかったんです。さらに、僕は本来「客」なのでもてなされる側なんですが、その一歩先で自分もお店をもてなそう…と。それが客である自分に課せられた使命であり、この店が今後もここで気持ちよく商売を続けていって下さる為に必要な客としての振舞い方なのかなって。
じろまるさんもお店をやられていたんですよね、行ってみたかったです。
じろまる 来てほしかった! 名古屋で居酒屋をやってました。小汚い店だったんですけど、なぜかお客さまに恵まれて。
事務員G 何年やってらっしゃったんですか?
じろまる 7年くらいですかね。ほんとにお金がなかったので居抜きで始めて、ペラペラしたメラミン樹脂っていうんですか、そんな感じのカウンターで、詰めて11席くらいのお店でした。

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🦏当時のお客さんが撮影していてくれたカウンター。ワークショップでも出したことのある「納豆ぐるぐる」もメニューに(写真提供:じろまるさん)

事務員G 雑然としたお店もいいですよね。とくに居心地が。ぼくもそういうお店とお友達になりたいです。
じろまる 汚いけど、出すものはいいんですよ。そこはこだわりで。
事務員G どんなお料理を出してたんですか?
じろまる 私ができる料理と、それからちょっと変わったものを出したいなと思っていたので、本にも書いたけど「ラルドをつまみにフランチャコルタを飲む」ような感じのものとか、一方でおでんを作ったり、だしまきも出したり、和洋中なんでも。その時々で、自分の頭の中が中華のテーマでいっぱいだったら中華料理が続いたり。日替わりメニューでやっていました。
事務員G そういう感じのお店だと、自分で注文しないお客さんもいるのかな。
じろまる いますいます。先ほどの事務員さんみたいに、座ってずっとお酒を飲んでて、人がちょっとすいてきたり、わたしの手が空いたときを見計らって、「……何か二つくらい」って注文してくれる。
事務員G ああ~いいですね。「客」っぽい!
じろまる やっぱりその人は超・お得意様なんですよ。

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🦏お店で出していたフロマージュドテッド(豚の頭部の肉を煮こごりにした料理)。「フレンチだとラビゴットソースとかかけることが多いんですが、居酒屋なんで地にしっかりめに味をつけて、そのまま食べてもらう形にしました」とじろまるさん(写真提供:じろまるさん)

すっかり、きれいに、ブラウンな

事務員G Twitterもフォローさせてもらっていますけど、最初は怖がられていたとうかがいました(笑)
じろまる 怖かったというか、事務員さんはピアニストでいらして、わたしとはジャンルが全然違うと思っていたので、フォローしていただくようになってもどこに接点があるんだろうって……。事務員さんはあまりTwitterに料理作りましたって書かないじゃないですか。インスタグラムを見るまでは、料理がお好きってこともわからなかったんですよ。あとで知って、なるほど、この人はこんな料理が好きなのかって。
事務員G そう、料理のことはあまりTwitterには書かないですね。
じろまる 事務員さんがインスタに上げてらした丸鶏、見ましたよ、すごいきれいだなと思いました。周りの野菜の配置とかが「超おしゃれ!」と思った。

事務員G ローストチキン、焼くのはできたんだけど切り分けるのがうまくできなくて。
じろまる これ、向きがね、逆なんですよ。本来はお腹を上、仰向けにした状態で焼いて、その状態で切り分けたほうがいい。
事務員G そうだったんですね。初だったもんですから。
じろまる でも焼き方は上手。昔読んだ本の中で「あなたのターキーはすっかりきれいにブラウンに焼けるのね」っていう翻訳の一文があって、それがたぶん、いいことなんだと思うんです。
事務員G なるほど、「すっかり、きれいに、ブラウンに」。メモります。
じろまる に、なってるじゃないですか、この丸鶏(笑)。いい焼き方になっていると思います。
事務員G 楽しかったです。
じろまる 事務員さんはホームパーティーをよくやってらして。いろいろ料理を作ってもてなしてますよね。相手によって料理は変えています?
事務員G もちろん変えています。ぼくはもともと、原宿のワンルームの部屋に住んでいて、そのころは横のコンビニで買ったものばかり食べていたんです。でも、ある正月に実家に帰って親が作るお雑煮を食べたら、「なんでこんなにおいしいんだ」と。理由を聞くと「だしを引いてる」って言うんですよね。「そんなわけ……」って思いながら帰って、小さいキッチンで昆布とかつおぶしでだしをとってみたら、ほんとにおいしくて。
じろまる それはいくつくらいのとき?
事務員G 20代半ばですかね。それで、これ(料理)はおもしろいぞ、となって。自分と同じような境遇で音楽をやろうと東京に来てる人って変な食事しかしてなかったので、よし、食べさせてやろうと。ただワンルームで呼ぶスペースもないし一口コンロしかないからって、それで引っ越したんです。
じろまる それが理由で引っ越し!
事務員G  そういうことで始めてるから、たとえば20代の男の子がわーってくるときは唐揚げをドーン。だけど30代に差し掛かってくるとみんないろいろと心配になってくるので、滋味豊かなものにしたり。
じろまる それこそだしを利かせたり。
事務員G そうですね。量はあまり入らないから気の利いたおつまみをばーっと出すとかにしますね。
じろまる だしをとるより前にお料理の経験は?
事務員G ほとんどないですね。やり始めたらやる、ってことは自分でわかってたんですよ。料理を始めてしまったらズブズブになることはわかってて、手を出さないようにしてた。
じろまる でもお母さんは料理上手でした?
事務員G そうですね、母方の家系が全部料理系の接客業ですね。
じろまる ああ、じゃあセンスとかちょっとした機微みたいのが自分の体にあった、というのはあるんじゃないですか。
事務員G あったでしょうね。うつわを選ばされてたこともあるし。
じろまる うつわは大事ですよね。
事務員G うちのうつわの量がすごかったです。大きな皿とか。
じろまる うちは母が長崎出身なので、有田焼イズベストなんですよ。「ほかは認めねえ」みたいな。きょうだいで今でも毎年5月に有田まつりみたいなのに行ってごっそり買ってきますよ。高齢なんだけどまだうつわ買うか、みたいな(笑)。
事務員G 有田焼もいいですよね。
じろまる いいですけどね。おかげで私は反動で、しばらく染め付けものは一切ダメだったこともあって。
事務員G 土っぽいものに惹かれる。
じろまる それから何周かして今は有田もいいよねと思ってます。

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🦏実家の朝ごはんは母の有田焼コレクションで。茶碗は母お気に入りの「源右衛門窯」のもの(撮影:じろまるさん)

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事務員G(じむいんじー)
インターネット上での活動から音楽活動を開始し、現在多方面で活躍する演奏者。2008 年よりイベントを企画、「unplugged afternoon」「虹色オーケストラ」「Stars on Planet」など実施。2012年公開のVOCALOID™楽曲214曲をつなげて弾いた映像が、ニコニコ動画「動画アワード」「演奏してみた」カテゴリでMVD受賞。2014年9月アルバム『N43』、2017年3月アルバム『G'sG60 ~スタジオジブリピアノメドレー60min.~』をリリース。近年では他アーティストの各種コンサートにおけるオーケストラ・オーガナイザーとして作曲や編曲にも携わる。
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じろまるいずみ
長崎生まれ、房総育ち。現在は東京在住。
幼少の頃から筋金入りの食いしん坊。名古屋・新栄で居酒屋「JIROMAL」を経営(現在は閉店)。店の評判からレシピを含んだエッセイを書くようになる。なぜか食にまつわるエピソードに事欠かない。現在は料理のワークショップを定期的に開催するほか、料理作家として執筆活動も行っている。
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東京・神保町にある、文学・芸術を中心とした書籍と各種学校案内書を発行する出版社です。犀🦏のマークが目印です。

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